『手紙』
昔から文字を書くことが好きだった。
作文もそう、日記もそう。文章には自分自身の心が表れる。
なかでも、手紙は心の中を整理してくれるツールだと思う
文通が流行ったのは、小学生の頃だった。仲のいい友達同士で手紙を交換し合う。
内容は、先生の愚痴、最近の趣味など他愛のないことだ。毎日顔を合わせているのに、何故手紙を書く必要があったのだろう。今思い返すと不思議だ。
段々歳を重ねるごとに、交換相手との距離が遠くなっていった。海外に引っ越した友人、卒業の際後輩に送った手紙。
一番最近書いた手紙は何だっただろうと思い返す。それは、先月亡くなった祖父へのものであった。
危篤の知らせは急だった。荷物も持たず、走って新幹線に飛び乗った。私が駆け付けた瞬間、祖父は息を引き取った。
人の死は何ともあっけなくて、「ドラマのように」という例えがぴったりと当てはまった。
小さい頃、父子家庭だった私の世話を率先して引き受けてくれたのが祖父だった。父よりも一緒に過ごした時間は長かったと思う。
しかし、急に訪れた別れは残酷だった。心の整理もつかないまま、通夜、葬儀の準備に追われた。通夜の前、納棺師に白いメッセージカードを渡された。「伝えたいことがあったら、棺に入れてくださいね」。
最初は書く気が起きなかった。別れの記しのようで嫌だった。家族皆が書き終わった後、ようやくペンを取った。
小さな文字で書いていたのが、段々余白を埋め尽くした。書いていく内に、冷静さを取り戻した。「これが最後の手紙なんだ」と実感した。
「おじいちゃんのような優しい人になります」
最後の一文はこれで締めくくった。祖父へ送ったメッセージは、私の人生の指針になった。
*以前就職活動で書いた作文の供養です。
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