アラフィフおじさんの惨めな人生
「このまま、生きて楽しいのかな」毎日のように暇があれば考えている。ただ、今の俺には暇しかない。50にも近いおじさんが何言ってんだという話だが、毎日の繰り返しばかりで特に目新しいことはない。
「就職氷河期世代」なんて俺が大学生の時は呼ばれたけど、当時の俺は今が楽しければいいという感じでフリーターがカッコいい生き方と思っていた。2つ下の弟は、同じような就職氷河期を経験したはずだが持ち前の人間性で大企業に就職して出世して今は幸せな家庭を持っている。
そんな俺と弟を見て、親の目も自然と弟に傾くようになっていた。できのいい弟の方が可愛いってことがよくわかる。親父も大企業に勤めてお袋は専業主婦というよくある昭和の家庭だった。そんな家庭のある神奈川県川崎市で俺は育った。
若い時は期待される目が少し疎ましいと思っていた。弟が自分の避雷針になって正直、嬉しかったが年を重ねるごとに考え方が変わった。いつの日か、誰かに興味関心を持たれることがなくなった。
俺は今タクシー会社でバイトの月収20万円でなんとか暮らしてる状態だけど、いつも客との会話ばかり。たまに酔っ払ってトラブルになる客もいる。どれも一度限りで深い関係になることもない。
30を過ぎてからそんな寂しさに気づいて婚活を始めた。だけど女性が求めるレベルから言えば俺は完璧な売れ残り状態だった。マッチングアプリなんかもはじめてみたけど、そもそも見た目でマッチングしないし、トークも弾まない。
奇跡的なデートができたとしてもフラれるというオチ。金とルックスという指標を通してしか見られてない。人間性を重視するなどまやかしだ。やるせない気持ちになって恋愛や婚活から逃げるようになった。
家でSNSを開いて若い女の子を見てる時の方がインスタントな恋愛感情になれる。いつも仕事が終わって途中のコンビニで酒とつまみを買って家に帰る。そして若い女の子をおかずにして寝る日々だ。
数年に一回のタイミングで「このままの人生じゃダメだ」と思って行動に出てみたこともある。YouTubeの情報系YouTuberを見て、ブログやYouTubeを始めて見たこともあった。時には、情報商材に数十万円払ったこともある。
でもどれもうまくいかなかった。自分的には継続したつもりだけど、人生は簡単にひっくりかえせなかった。それにしてもTikTokの女の子はそんなことをしなくても多くのオスが集まってくる。
俺もそのオスのひとりだけど、心底羨ましいなと何度思ったことだろう。こんな人生の悩みを誰かに相談したくても誰もいない。弟は人生の成功モデル、両親も弟にゾッコンだ。友達はというと、みんないい年だから結婚してしまっている。
まさにひとりぼっちのおじさんだ。お金もなければ友達もいない。これでお金があれば派手に六本木でお姉ちゃんでも呼べるんだろうけどね。今の俺は何もない。なんなら今まで多めにあった頭の髪の毛もなくなってきたくらいだ。
平日の真昼間。正社員ならこの時間に忙しく働いている時間に、シフト勤務のバイトの俺は自分の家にいる。今日は休みで昼間から酒を飲んでる。何気なくつけたテレビで今日もワイドショーで芸能人叩きをしている。
くだらないニュースのあとは日本の女性社会進出率が低いなんて言ってる。ぶっちゃけ、俺なんかより今の東京のOLの方がよっぽど稼いでるし社会的な意義もあると感じてるし、だからみんな目が肥えてきて俺より上の男とくっついてる。
女性がマイノリティなら金も特技もないおっさんはドマイノリティだ。救いようがないお荷物だ。イケおじとして持てはやされるわけでもない。俺のような男は座して死を待つだけだ。
次は年金のニュース。もうそろそろ、俺も年金受給者としての年齢が見えてきた。
この日本の年金システムがどこまで機能するか怪しいとは思ってるが、テレビの街頭インタビューで年金問題に「けしからん」と騒いでいる老人は、これまで真面目に勤め上げてきて社会を動かしてきた実績と自負があるからこそ怒りが沸くわけで、俺はおこぼれをもらえるだけありがたく思う。
この感覚の差がこれまでの人生をどれだけ情熱を持って生きてきたかの差なんだろうな。最後のニュースは強盗殺人事件だ。どうやら犯罪を犯すのは男性の方が多いらしい。
アメリカでもコンプレックスを抱えた70の爺さんが銃を乱射して人を殺した後に自殺したんだってさ。失うものが何もない人を無敵の人と言うらしい。俺は最後のビールの一口を飲み干してテーブルに叩きつけた。
日を増すごとにこいつらの気持ちがわかってきた自分がいた。