この"スライダー"がすごい!2020
こんばんは。
レモンサワーは檸檬堂しか勝たん、あおとらです。
2週間ほど前に投稿した「この"ストレート"がすごい!2020」に続いて、今回はスライダー編として「この"スライダー"がすごい!2020」をお送りしたいと思います。
この間に挟んだ「スライダー系球種を深掘りしてみよう」ではスライダー系球種としてスライダー・カットボール・スラーブをひとまとめにして調査しましたが、今日は「スライダー・スラーブ」で1本の記事にしたいと思います。
ストレート編はこちら↓
スライダー系球種の詳細はこちら↓
1. スライダーのNPB平均
改めてスライダーのNPB平均に触れていきましょう。
スライダーはストレートに次いで2番目に多く投じられているポピュラーな球種です。一方、おそらくスライダーとカーブの中間球を表していると思われるスラーブは102球とほとんど投げられておらず、ヤクルト・長谷川宙輝が56球、西武・榎田大樹が26球、DeNA・山﨑康晃が20球投じています。
スライダーの空振り率は12.2%と、落ちる系球種とストレート系球種の中間程度。被打率の.233も概ねその順番で中間くらいの数値となっています。
2. スライダーの各種成績
① 投球割合(総投球数100以上)
阪神・桑原謙太朗やソフトバンク・嘉弥真新也など、上位の投手は投球割合が60%に迫っています。
右殺し・左殺しといった役割を任せられることの多い中継ぎ投手が多く並んでおり、中盤以降で特定の打者を封じる際にスライダーが大きな武器になりうることを示唆しています。
② SwStr%(=空振り/投球数、スライダー投球数50以上)
続いて空振り率ですが、前回記事でも見たようにせっかくなので左右別に見ていきましょう。
"右投手 vs 左打者"部門のトップはロッテ・東條大樹。
右サイドハンドから強烈な曲がり幅のスライダーを投じており、左右問わず20%前後の空振り率を誇ります。
左打者に対してはインコース中心に空振りを奪っており、対左被打率.263とサイドスローながらそこまで左を苦にしていない要因の一つとなっています。
"右投手 vs 右打者"部門のトップはオリックス・山本由伸。
スラッター系のスライダーが特徴で、曲がり幅を大きくすることで昨年よりも空振りを増やすことに成功。
右打者相手にスライダーで奪った三振は10個(右打者合計57個)とそこまで多くはありませんが、下の動画の中田翔に投じたスライダーのキレはおそろしさすら感じるボールです。
次は左投手を見ていきます。
"左投手 vs 左打者"部門のトップはヤクルト・中澤雅人。
残念ながら今季限りで引退となってしまいましたが、左キラーとして最後までスライダーのキレは一級品でした。
"左投手 vs 右打者"部門のトップはソフトバンク・モイネロ。
おそらくチェンジアップ・カーブ部門でも登場することになるかと思いますが、ストレートを含めどの球種もトップクラスの鬼リリーバーです。
スライダーによる奪三振は左右計で14個と全体のおよそ20%。特に右打者に関しては"バットとの接点がない"と形容できるような曲がり方をしています。
先日のスライダー分析で見てきたように、SwStr%の高いスライダーは"135km/h前後のスラッター系"もしくは"120km/h台で大きく曲がるスライダー"に大まかに分類することができそうです。
それにしてもパ・リーグTV有能すぎですね。
③ Pitch Value/100(投球による100球あたり失点増減、スライダー投球数50以上)
前回ストレート編ではwOBAで評価しましたが、今回はPitch Value/100で評価してみることにします(ブレブレ)。
投球割合がストレートに比べ少ないことから、打席イベントの発生が限られることもあり、スライダーによるカウント変化についても評価の対象に加えることのできる同指標を使うことにしました。
また、今回算出しているPitch Valueは、同一球種間での相対的な評価を示す一般的なPitch Valueとは異なり、全球種の平均と比較した評価値になります。球種の命名が変化量やボールの性質に基づいたものではなく、選手の呼称ベースであるため、球種の正確な分類が困難という点が一つの理由です。
詳細はこちら↓
スライダーの投打左右別のPitch Value/100ランキングは以下の通り。
まずは右投手から。
"右投手 vs 左打者"部門のトップは中日・又吉克樹。
サイドスローながら対右被打率.281(63PA)に対し、対左は.167(42PA)と左打者を得意にする稀有な存在です。
昨シーズン以前は左打者を相対的に苦手にしており、特に不振だった18・19シーズンはその傾向が顕著だったことから、今シーズン復活を遂げた要素の一つとしてこのスライダーがあるのかもしれません。
"右投手 vs 右打者"部門のトップは西武・増田達至。
投球の8割近くがストレート、残りのほとんどがスラット系スライダーの2ピッチ投手ですが、クローザーとして西武を支えました。
増田のPitch Valueの源泉は圧倒的なストライクゾーン投球割合(Zone%)です。NPBにおける右対右の対戦でのスライダー系球種のZone%・48.5%に対し、増田は77.0%。打球の発生は多くありませんが、積極的にゾーン内にスライダーを投げ込み、ストライクを稼いだことが評価される形となっています。
次に左投手です。
"左投手 vs 左打者"部門のトップは巨人・大江竜聖。
極端なインステップのフォームを活かし、一軍2年目にして巨人の強力リリーフ陣の一角を担う投手に成長しました。
対左の被打率.105、奪三振数15はNPBトップクラスであり、対右打者の方にもランクインしているように左右問わずスライダーは武器になっています。
"左投手 vs 右打者"部門のトップは巨人・高梨雄平。
昨シーズンまで対左打者メインで起用されていた楽天からトレード移籍し、今季は打者の左右関係なく抑えられることを巨人で証明。中川・大江とともに左腕リリーフ王国を築き上げました。
対右のスライダー被打率は27打数1安打の.037と完璧に抑え込み、フライアウト4に対しゴロアウト10とリスクの低い投球を見せています。
3. 注目投手
① 中日・又吉克樹
"右投手 vs 左打者"部門のPitch Value/100でトップ。
対左の投球は主にスライダー・ストレートで構成され、ストレートとの球速差は平均6.0km/hと比較的小さいようです。
カウント別に見ると対左の0ストライク時に積極的に投じていることに加え、追い込んだ後の決め球としても活用しています。
浅いカウントではゾーン内で広く分布しており、2ストライク時には打者の膝元を中心に投げ込むことで凡打を重ねています。
左のインに切れ込むような軌道でスライダーを活用できたことが今年の復調に繋がったことが推測されます。
② 西武・増田達至
"右投手 vs 右打者"部門のPitch Value/100でトップ。
ストレートで押しまくる中にスライダーを時折混ぜるような投球スタイルで、ほぼ2球種であるにもかかわらずトータルの被OPS.498と抑え込んでいます。
右打者へのスライダーは0/1ストライク時に多く投じられており、追い込んでからはほとんどが直球というまさしく異端の球種構成となっています。
どのカウントでも真ん中から外に制球されていますが、外角低めへの投球割合はそこまで高くないことが見受けられます。積極的にストライクゾーンへと投じ、真ん中の高さでありながら球威で押し切るような力強い投球が特徴です。
③ 巨人・大江竜聖
"左投手 vs 左打者"部門のPitch Value/100でトップ。
直球とスライダーの2球種で投球が構成されており、ストレートとスライダーの球速差はかなり大きく、平均20km/hほど乖離しています。
対左打者に関して、カウントによる投球割合にそこまで大きな変化はないようです。
一方、投球コースを見るとカウントが進むにつれ低めへの投球割合が高まっていく様子が分かります。
浅いカウントではゾーン内を広く使ってカウントを稼ぎ、追い込んでからは"絶対に甘くならないように"という強い意志を感じるようなボールの集まり方をしています。
独特のインステップからここまでアウトローにスライダーを投じられると、左打者にとってはかなり遠く感じるのではないでしょうか。
④ 巨人・高梨雄平
"左投手 vs 右打者"部門のPitch Value/100でトップ。
投球はツーシーム・ストレートの速球系と、15km/hほど球速差のあるスライダーで構成されます。
スライダーに関しては、球速の大きな山が125~128km/h前後にありますが、それよりも遅いボールも意図して投げているような、裾の長い分布になっています。
対右のカウント別では、0ストライク時にスライダーをやや多投する傾向があるものの、基本的にはツーシームとバランスよく組み合わせているようです。
0ストライク時はゾーン内に広く投じているようですが、打者があまりスイングを仕掛けていない点が特徴です。
曲がりの大きい球種であることから、ミートすることが難しいと打者が判断している可能性があり、カウントを稼ぐという観点で非常に有効なのではないかと考えられます。
一方、追い込んでからは膝元もしくはバックドアで外角に入ってくる投球がメインのようで、バックフットに決まるスライダーの空振りの多さが目立ちます。
4. 最後に
相変わらず長い投稿を最後までスクロールしていただき、ありがとうございます。
今回特に取り上げた投手はそれぞれに個性のあるスライダーを投じており、非常に興味深い特徴がいくつか見られました。
膝元への徹底したコントロールであったり、打者の読みを外れるようなバックドアでのスライダーの活用等、単純な曲がり幅だけに注目するのではなく、どのような意識で投じているのかを推測しながら観戦するとおもしろいかもしれないですね。
次回は、「この"カットボール"がすごい!2020」。
年内に出せるかわからないので、とりあえず皆様よいお年を。