この"チェンジアップ"がすごい!2020
こんばんは。
流行に逆張りしていると一寸先は老害な気がしたので鬼滅の刃を読み切りました。おもしろかったです。
最強・悲鳴嶼さんと同い年と思うと、圧倒的に鍛錬が足りませんね。
今日は変化球シリーズ第5弾、「この"チェンジアップ"がすごい!2020」です。
前回記事はこちら↓
1. チェンジアップのNPB平均
チェンジアップの投球割合はNPB全体で6番目。
平均球速は130km/h程度であり、前回取り上げたフォークやスプリットよりも遅いボールです。
空振り率は16.9%と、フォーク・スプリットに次ぐ水準。被打率やOPS・wOBAも上位であり、球速は遅くとも、落ちるボールの強力さがうかがえます。
2. チェンジアップの各種成績
① 投球割合(総投球数100以上)
投球割合トップはオリックス・ヒギンス。
持ち球はストレート・チェンジアップ・カーブの3球種と少なく、投球の9割以上をストレートとチェンジアップが占めています。
ヒギンスのチェンジアップは落差は大きくないもののストレートとの軌道の差が少ない"パラシュートチェンジ系"で、平均球速151km/hのストレートとの緩急差で打者を翻弄しました。
先日契約の更新が発表されましたが、球種が少ないだけに他チームがどう研究してくるか、またヒギンスがそれを乗り越えられるかどうか注目です。
② SwStr%(=空振り/投球数、チェンジアップ投球数50以上)
右投手のトップは阪神・伊藤和雄。
故障に苦しんだプロ生活でしたが、9年目にしてプロ初勝利を挙げるなど2020年は自己最多の登板数を記録しました。
ホップ量の大きい独特のストレートに加え、空振り率が30%に迫るこのチェンジアップを武器とし、15.1イニングで20四球を与えた不安定な投球ながらも防御率は3.52にとどまるなど、要所を抑えるピッチングは光っていました。
2021シーズンには32歳を迎えますが、同僚の阪神・桑原謙太朗がブレイクしたのも32歳。課題の制球さえクリアできれば面白い存在になりそうです。
左投手のトップはソフトバンク・モイネロ。
ソフトバンクの最強リリーバーはストレート・スライダー・チェンジアップ・カーブの持ち球全てで勝負できる投球を披露していましたが、最も空振り率が高いのがこの球種。
2019年のチェンジアップの空振り率・打率はそれぞれ16.7%・.300だったのが、2020年には29.5%・.091と大幅に向上しており、圧倒的な投球に磨きがかかったのはチェンジアップの躍進によるところも大きいようです。
③ Pitch Value/100(投球による100球あたり失点増減、チェンジアップ投球数50以上)
前回記事同様、ここで算出しているPitch Valueは同一球種間での相対的な評価を示す一般的なPitch Valueとは異なり、全球種の平均と比較した評価値になります。
右投手のトップはDeNA・パットン。
基本的にはストレートとスライダーの2球種を投じていますが、左対策にチェンジアップを投じています。
左打者へのスライダーがうまく機能していないことをチェンジアップで補う投球かと思いましたが、意外にもどの球種の指標も対左の方が優れており、右打者には投じないチェンジアップの存在がアクセントになっていた可能性を感じました。
左投手のトップはヤクルト・寺島成輝。
プロ4年目の昨シーズンはリリーフとして30試合に登板し、飛躍を果たしました。
カットボールやチェンジアップ、カーブ等多彩な球種を投じていますが、指標的にはチェンジアップが最も優れており、ストレートが安定しない中でも結果を残せた要因がここにあるように思います。
昨年オフに同じくチェンジアップを武器とするDeNA・今永昇太と自主トレを共にしたこともヒントになっているのかもしれません。
3. 注目投手
① 阪神・伊藤和雄
右投手のSwStr%でトップ。
チェンジアップの平均球速は131.3km/hで、NPB全体の平均を若干上回ります。ストレートの平均が141.8km/hと速くないことを考えると、速球との緩急差は比較的小さいようです。
カウント別に見ると、制球に不安があることもあり全体的に直球の割合が多く、チェンジアップは1ボールまでのボールカウントで多く投げられています。
カウントが有利かつ勝負を仕掛ける1ボール2ストライクの投球は投球の6割以上をチェンジアップが占めており、空振りを積極的に狙っていました。
右打者(上)・左打者(下)ともに制球のバラつきこそありますが、低めに投球された際の空振りの多さは凄まじく、35.0%にも上ります。
伊藤のチェンジアップはフォークに見まがうような落差を誇るボールであり、低めに決まった際にとらえるのは相当困難に見えます。
ストレートやスライダーでカウントを整えることさえできれば、、という投手で、今後期待していきたいところです。
② ソフトバンク・モイネロ
左投手のSwStr%でトップ。
チェンジアップの投球割合は3番目ですが、左右で投球割合に偏りがあり、逃げる軌道になる右打者への使用がメインとなっています。
右打者に対しては変化球3種(スライダー・カーブ・チェンジアップ)をバランスよく同程度の割合で投じており、追い込むにつれて変化球の割合が上昇するとともにチェンジアップの投球割合も上昇していきます。
右打者(上)にはアウトコースを中心に投げ込んでいますが、必ずしも低めに集まっているわけではありません。特徴的なのはゾーン内でも多く空振りを奪っている点で、速いストレートを警戒する中で抜いたようにチェンジアップをゾーンに投げ込まれると対応が困難であることを示しています。
左打者(下)への投球数は多くありませんが、ゾーン内にまばらに投球しているようです。こちらは空振りを奪うわけではなく、ゾーン内で見逃しをストライクを稼ぐケースが多くなっています。
いずれにしても速いストレートとチェンジアップの組み合わせは効果的に感じられます。
③ DeNA・パットン
右投手のPitch Value/100でトップ。
先述したようにストレートとスライダーのほぼ2ピッチで、チェンジアップはほぼ左打者のみに投じています。
平均球速は135.5km/hで、チェンジアップの中では速い部類に入ります。
カウント別で見るとチェンジアップは1ストライク時に多く、落ちるボールとしては比較的珍しいように感じられます。
左打者へのチェンジアップの投球チャートを確認すると、ゾーン内への投球割合が非常に高く、Zone%は54%とNPBのチェンジアップ平均43%を大幅に上回ります。
最も投球割合の高い1ストライクでは高めでの凡打も見られ、ホップ型ストレートとの併用により打者を惑わす効果があったのかもしれません。
④ ヤクルト・寺島成輝
左投手のPitch Value/100でトップ。
寺島のチェンジアップ投球割合は3番目に多く、他の球種のPitch Valueが軒並みマイナスを記録する中で唯一大幅なプラスをマークしています。
左右別・カウント別では右打者に多く投じていることがわかり、1ストライク以降で投球割合が上昇していきます。
右打者(上)への投球はきっちりアウトコースに集められており、初球には見逃しを、1ストライクでは空振りを多く稼ぐことができているようです。
一転2ストライク時には空振りはさほど多くなく、引っ掛けたようなサード/ショートゴロを多く記録しています。空振りを狙った結果なのか、あえて手が届く範囲に制球しているのかは定かではありませんが、いずれにせよチェンジアップの右打者への制御は非常に優れているように感じます。
4. 最後に
チェンジアップの優れた使い手の投球を見てきましたが、ヒギンスは緩急差を活かすパラシュートチェンジ型、伊藤は真下に落とすようなスプリットチェンジ型、モイネロは右打者の外へと逃げる抜いたような軌道、パットンはゾーン内での活用、寺島は空振りとゴロアウトの両にらみと、一口にチェンジアップと言ってもその変化や用法は様々ですね。
チェンジアップの種類にもぜひ着目していただければと思います。