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日本一を目指すとは? (第31回全国身体障害者野球大会出場報告1)

 東京ブルーサンダース 背番号21番の山形です。

 早速ですが、このnoteをご覧頂いている皆さんにお聞きします。

 『強いプロ野球チームってどこですか?』

 長くプロ野球をリードする巨人、巨人OBの王元監督とともに強くなったソフトバンク、ここ2年はオリックスとヤクルトが日本一を争いましたね。あと球団がある地域の皆さんや各球団のファンの皆さんは、それぞれのチームに強くあって欲しい。

 では『高校野球の強いとこはどこですか?』
少し前までは、PL学園、今では大阪桐蔭、東京関東ですとハンカチ王子の早稲田実業、松坂投手の横浜、東海大相模、花咲徳栄など、プロや高校野球までなら普段野球を見るかたもそうでもないかたでも、ある程度想像したり、名前を聞くこともあるかも知れません。大学野球・社会人野球の強いところを知っているかたは、かなりの野球好きのかたかとお察しします。
 
 では 『身体障害者野球の強いチームは?』

 私が入団する前に、我がブルーサンダースが全日本選手権に準優勝した経験があること、つまりブルーサンダースも強豪チームであること、その時に決勝で敗れた相手、神戸のチームが身体障害者野球の創設と普及に尽力する強豪チームであり、ずっと勝ち続けるチームであること(身体障害者野球連盟の公式戦105連勝の記録を樹立した)は、入団をしてから知ることとなりました。身体障害者野球の強いチームが、一般の皆さんにも知って頂けることを目指して全力で取り組みたいと、改めて思います。

プロ野球 高校野球 アマチュア、学童、そして身体障害者野球 各カテゴリーの熱戦が繰り広げられるほっともっとフィールド神戸からのメッセージ 

 私がチームに同行して、初めて秋の全日本選手権に遠征した2002年、会場に向かう列車の中で「神戸に勝ちたい」「コスモスに勝つ!」といった言葉を、当時の先輩方からよくお聞きしました。「ふーん 神戸コスモスという名前のチームが強いんだな。神戸は自身の地元に近いな」という認識で同行したその大会でも神戸コスモスに敗れました。その翌シーズンから私も、悔しさを抱きつつ正式にチームに入団しましたが、春の全国大会、秋の全日本選手権では日本一を目指すブルーサンダースの前に、神戸コスモスが大きな壁となって立ちはだかり続け、この間の20数年間のシーズンで春に1度、秋に2度、日本一を賭けた決勝戦にすべて敗れました。大差をつけられてしまったゲームから、2014年秋の選手権決勝サヨナラ敗戦まで、挑み敗れることを繰り返すと、選手としては自然に日本一への意識・そして神戸コスモスへの意識も高まるものです。  

 さて改めまして、東京ブルーサンダースは、5月13日・14日に、オリックスバファローズのホームスタジアムとしておなじみの『ほっともっとフィールド神戸』及び隣接する『G7スタジアム神戸』で開催された『第31回全国身体障害者野球大会』に2019年大会以来4年ぶりに出場しました。東京都及び近郊の新型コロナウイルス蔓延によるチーム活動制限を乗り越え、前年度の関東甲信越大会準優勝の成績を得られたことが、全国大会への選抜を頂けた大きな決め手となりました。ただ、その全国への復活を果たす大会での初戦の相手が、常勝チームの神戸コスモス。「厳しい組み合わせだな」と捉えていたのですが… 

「こんないいとこで野球させてもらえることなんかメッタに無いですから~~!!」

 開会式を待つブルサンが陣取るスタンドで、前回出場時に全国のマウンドにデビューを果たした三浦の、少しはしゃいだような快活な声が響く。不出場の間のブランクを経て、今季から副主将としてチームの中心を担う立場となりましたが、要所でチームに明るい空気を持ってきてくれています。

最高のスタジアム いい場面で先制点につながる一打を放った三浦(2回裏)

「ヤバかった…東京駅迷っちゃった…新幹線わかんねー…」
こんな声も聞こえてきましたが、ブルサンナインから、開会式や試合に関する話題が、出ない。その時点で試合まで約6時間もありましたので、当然なのですが、私が知る20年前のチームの空気とは明らかに違いました。先述の全日本選手権決勝でサヨナラで敗れて以来、9年ぶりの神戸コスモスとの対決を控えていますが、今回のメンバーの約半数がその後に入団してくれたメンバー。試合の時間が近づき、アップゾーンでの調整が始まっても、各選手がマイペースにそれぞれ準備を進めていました。「もしかしたらこの空気感が武器になるかも知れない」との感覚を感じながらアップを続けていると

「じゃんけんは勝ってきたぞーー!!先攻先攻☆」
と、新キャプテン大沼が、まさに新キャプテンなので“公式戦初ジャンケン勝利”を果たし得意げに帰ってきました。(結果的には試合後への伏線になったかもしれません)アップゾーンの自然なミーティングの輪の中で財原新監督が「相手の先発ピッチャーは?」と確認をしたときに、初めて試合への空気を共有した感じはありましたが、その時間とチームのスターティングメンバー発表時以外は、各選手がそれぞれ自身の心身への準備を重ねて、意識を高めて試合開始を迎えました。

身体障害者野球の常勝チーム・神戸コスモスに、今回もスローガン「常笑精神」で挑んだブルーサンダース

 全国大会では、その日の最初の試合から後の試合については、試合の終了から次の試合の開始まで、インターバルが15分程度しかないことが普通です。大会の出場自体が久しぶりですので、ベンチ入りして準備して、大急ぎでアップしてという、手際よくはいかないまでもドタバタと準備をする空気感も普通なのですが久しぶりの体感でした。そして、残念なことに雨脚が強くなってくる…短時間にいろいろと気を向けている間に、相手の神戸コスモスはもうベンチ前の整列完了。そこで我に返るように「あっ 神戸コスモスだ!」と初めて相手を意識はしましたが、挨拶を終えてそのままスピーディーに試合が開始されました。  

 制限時間制も併用する身体障害者野球は『先攻有利』の鉄則もあるのですが、残念ながらブルサンは新キャプテンがもたらした先攻のメリットを、粘りながらではありましたが2三振を喫し、活かせませんでした。裏の守備“いいとこ” 2年前に日本シリーズの会場にもなったスタジアムのマウンドデビューにもなった三浦でしたが、独特の全国大会の空気や雨、難しい状況での立ち上がり先頭打者にフォアボールを許します。次の打者はセカンドゴロ、セカンド笠松が声のかかったショート財原へ落ち着いて送球し封殺。得点圏にランナーを進ませなかったことが、三浦への、ナインへの勇気となりました。後続を三振・ピッチャーフライで三浦が封じて無失点。「守ってるぞ!」という財原監督の声を円陣でメンバーが共有しました。

好守のサード市川。この試合ではゲーム展開を左右する打球がサードに飛んだ。

 一般的な野球の鉄則は、守備からリズムを作ること。ここから攻撃が始まり、三浦はピッチングのリズムをそのまま活かしてセンターへのヒット、死球で二塁まで進んだ三浦は、一塁をチェックしつつ一気にホームへ、ぬかるむフィールドへダイビングして一塁セーフをもぎ取った田中、リズムと気迫で、ブルサンがコスモスから『史上初めて先制点を奪った瞬間』が生まれました。その裏の守備、今度は死四球でランナーを二人出しますが、次打者のサードへのゴロに、サード市川が落ち着いて処理し“クールに”サードベースを踏む。ここで、二つ目のアウトをあえて取りに行かずに流れを維持したことが、市川の隠れたナイスプレーといえるでしょう。バックのクールな熱さを得た三浦が後続を二者連続三振、流れをコスモスに決して渡さずにゲームを進めます。

激戦を物語るベンチ。雨に濡れながらも水分補給はしっかり

 3回表、コスモスはピッチャーを交代し、試合の流れを変えにかかりました。それでも勢いに乗るブルサンは、二死から笠松三浦が連続ヒット、そして丸山が「ゾーンに来た!」(本人談)と振り抜いた打球がセンターフェンスに向かって…還った笠松三浦がそのままホームで手を挙げて丸山を呼ぶ。もう還るしかない丸山は雨中激走生還のスリーランホームランで4点のリードをもたらしました。さらなる追加点はなりませんでしたが、その後もランナーを出し、二死からコスモスを攻め続けました。

センターから同世代三浦にゲキを送る関。三浦はこの試合でコスモスに外野への打球を許さない力投を見せた。

 雨はさらに強まり、グランドのぬかるみも増す。マウンドにもたくさんの雨水が含まれていく難しい状況の中、神戸コスモスもボールを見極めながらの反撃に出ました。満塁の状況が続く中、三浦の球を受け続けるキャッチャーの田中が、言葉をかけ続けます。もともと、ブルサンのマウンドに立ち続けていた田中、コスモス相手のマウンドも何度も経験しているだけに、何気ない言葉かけでも十分にピッチャーに伝わるニュアンスもあるでしょう。投手にだけではなく、キャッチャーからバックに、バックからピッチャーに、そしてベンチからフィールドへ、ベンチに控える大森からの的確な指示も飛びます。コスモスの底力は判っていましたが、ブルサンは怯むことなく粘り切り、4-4の同点に追いつかれながらも、二死満塁その次の打者を三浦が空振り三振に切り、逆転は許さずに試合を終えました。

身体障害者野球界をけん引してきた神戸・田畑選手とブルサン田中。お互いよく知る両者の攻防。


 身体障害者野球公式戦 同点で試合を終えた場合は? 次回のコラムで改めてお知らせいたします。

同点二死満塁・サヨナラ敗戦のピンチを入念な確認を経てチーム全員で守り切ったブルサン

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