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ブルサンスタイル(第31回全国身体障害者野球大会出場報告2)

 東京ブルーサンダース 背番号21番の山形です。

 ここまでご紹介のとおり、『第31回全国身体障害者野球大会』の初戦、長きにわたり身体障害者野球界の頂点に君臨し続けてきた強豪チーム『神戸コスモス』を相手に、降りしきる冷たい雨がぬるま湯になっても良いほどの熱戦を演じた我がブルサン。決着はつかず 「4-4」で試合が終了しました。
 
 それではもう一度、このnoteをご覧頂いている皆さんにお聞きします。

『トーナメントで引き分けた場合の、勝利者の決め方をどれだけご存知ですか?』

 一番インパクトが強いのが、やはりサッカーでのスタイル “PK戦” ではないでしょうか?前後半と延長戦、全力で蹴り走り切った選手たちが、キーパーと1対1となりペナルティーキック。昨年のワールドカップでも、国民がかたずをのんで代表選手のPK戦を見守りました。勝ったチームはより団結できますが、負けたチームにとっては残酷な感もしてしまいます。ホッケーの場合はスティックで打つので “PS戦”と呼びます。
 野球は、原則は決着がつくまで延長戦を行うのですが、国際大会の流れから現在は高校野球でも『タイブレーク』を採用しています。あらかじめ、アウトカウントとランナーを設定します。これはプロセスが無く状況がスタートする難しさがありますが、タイブレークの名前はテニスの方法から採った名前ですね。ゲームカウントがタイの場合はサーブを交互に行い、サービスブレイクを狙う。ラグビーはどうでしょう?近年は同点の場合はトライの数を競う等の競技要素も採用されますが、原則的には『引き分け・非公開の抽選で進出チームを決める』方法でした。原則勝敗は決めない、ノーサイドの精神が根底にありますね。

神戸コスモスを相手に3回で6三振を奪う、三浦の気迫のピッチングにブルサンが奮起する。
これまでとは逆の視点から、三浦をリードしチームを統率、全国の舞台での捕手デビュー戦で見事な激戦を創り上げた田中・ゲームセットの瞬間のガッツポーズ

『身体障害者野球の公式大会では?』
ラグビー同様『ノーサイド・抽選』で進出チームを決定します。但しこちらは『公開・ホームベース前での試合終了時のメンバーによるジャンケン抽選での方法』激戦を戦い切った選手同士、笑顔で握手し“最初はグー”からの喜怒哀楽ドラマ、終わればまた握手、とは言え…
 このゲームの終了時点で9番に入っていたのは、今季から新監督としても挑む財原。
「ジャンケンの最後の勝負にまで、財原に委ねるのはあまりにも過酷すぎる…」と、それを本人に確認するわけでもなく、私自身がベンチからジャンケンの列を眺めながら過度に心配し思い込むことを突き破るように、8番の田中が、これまでマウンドや打席でも見せたことがないような、渾身のガッツポーズをベンチに向けてくれました。「あれまあ」関西気質特有の笑いの空気で敗戦を受け止めた神戸コスモス。両チームの笑顔の空気で、ブルーサンダースの準々決勝進出が決定しました。

雨中の大激闘はノーサイド、その後の“第2の激闘”も8番田中で決着、ブルサンが準々決勝に進出するその瞬間。

  大喜び、笑顔とガッツポーズにあふれるブルサン。神戸コスモスからの“勝利”はチームに自信と勢いをもたらしたのですが、雨の中での孤独なマウンドを守り切り、最後まで投げ切った、全国大会初完投勝利の三浦の涙を、チーム全員が共有しました。素晴らしいピッチングでした。紛れもない勝利投手です。 

 
 「早く来たけどアップは後からにしよう!」
 翌日の大会2日目5月14日の日曜日、前日勝利の勢いにそのまま乗りたいブルサンでしたが、言葉その通りに“水を差された”状態を見せられ、キャプテン大沼がチームに発したメッセージでした。前日試合中の雨が夜間も降り続き、準々決勝以降の会場となった「G7スタジアム」の内野の土にはシート。朝の時点ではほとんどやみかけていた小雨でしたが、その前の試合の開始を1時間遅らせる状況となりました。ただその状況でも「これなら出来そうですね!」といった前向きな言葉が出ていたことが、まさにこの大会中のチーム状態の良さであったと感じられます。前日の試合を振り返る会話、そして、あのジャンケンを振り返りながら、なぜかこちらは今日の対策までが聞こえてくる…「その必要はあるか!?」と、「この時点では」私は思っていました。

身を寄せ、語らうのは、雨か?野球か?人生か?

 準々決勝の相手、『名古屋ビクトリー』も前年のこの大会に優勝したディフェンディングチャンピオン。ただ、こちらの相手はコロナ禍前まで、例年ブルサンが出場させて頂いていた、東海地区のカップ大会「ドリームカップ」で優勝を争う対戦を積み重ねていましたので、対戦経験は豊富なチームです。それでも4年ぶりの対戦。例年新戦力や新しいピッチャーが加入して、活気あふれる相手ですので、ブルサンとしては注意しつつ、競り合いの展開に持ち込みたい。 

ベンチから、守備位置のショートから、相手チームにも自軍チームの采配にも挑んだ財原新監督。選手もアイコンタクトで応える。

 身体障害者野球の試合展開では、立ち上がり初回の攻防による得失点が試合の流れを大きく左右するのですが、この試合では無得点。2回裏まで進んでポイントが来ました。ブルサン、フォアボールを得ますが、後続が3者連続の空振り三振…名古屋ピッチャーの、打者の手元で微妙に変化するボールの軌道に打線が手こずります。得てしてこういう展開で試合が動くもので、乗った名古屋は次の3回、スリーベースのランナーを進塁打のセカンドゴロで還し、さらにヒットと2本目のスリーベースで追加点。点を取る流れも良い攻撃。対戦経験から織り込み済みだった相手の長打を受け、相手ベンチが活気づきました。 

3回、しぶとく食らいつく笠松がライトへ前に落とし、ブルサンの逆転を呼び込む。

 その裏のブルサン、まずは大沼がフォアボールを選び、続いて田中が、このゲームでも一塁への全力ダッシュで切り込みました。さらに笠松がしぶとく“ポテンヒット”で続き満塁。ここからは2者連続で内野クロスプレイによる攻防となりました。雨水含むグランド、変化球からの打球の回転、ランナーのダッシュ、ホームでの攻防。激しい攻守の攻防から田中がホームに還って1点差、続く二死満塁から市川が、この状況で当然、相手がストライクを取りに行く初球をレフトへはじき返し、二者を迎え入れて逆転します!続く新戦力の八木はセンター返しの一打を放ち4点目。マウンドで先制攻撃を受けた悔しさを持った先発の市川、ここまでヒットが出なかった八木、悔しさはしっかり打席で打球に込め、泥と雨にまみれて作ったブルサンのチャンスを見事に活かしました。

集中を切らさず、要所でギアを上げ、前年度優勝チーム名古屋を相手に5回を投げ抜いた市川。
フライに対する、レフト八木の1歩目ダッシュ

 最終回が告げられた5回、死四球からのピンチ、リードする最終回のマウンド、どんなに難しくなるのか?マウンドに立つ当事者を襲い、経験すると糧になる。市川もペースを変えず、勝負カウントでは声を出して力投するも、内野安打で同点とされます。続く名古屋6番打者のレフトラインへの切れていくあたり、八木が背走し、追いつきました! 打点得点のような明確な記録では表記されずとも、コロナ禍にチームに加わり、大会の舞台を待っていた八木が、ブルサンに大きな勇気を運びました。それでもはにかんだ笑顔で物静かな八木、周囲は盛り上がり、各選手を讃える大歓声。サヨナラ勝利への機運は高まりましたが、あえなく三者凡退…でも、少しの沈黙の後それでも機運が収まりません。再び元気にホームへ飛び出すブルサンナイン!この機運は何でしょう!? 

『スコアまで同じ4-4 本日もジャンケン抽選です』  

 ホームに両チームが並び、大会役員さんや両チーム関係者も立ち会う前日と同じルーティンの光景。私はベンチに残りましたが「イケるような」根拠のない思いで見ました。それでも相手がリーチとなる中で追いつき、9人目・やはり財原監督に・・・ただ、監督はベンチから見えずに他のメンバーが万歳。淡々と最後のジャンケン抽選に勝利した新監督。ディフェンディングチャンピオンにも“勝利”したブルーサンダースでした。

名古屋戦のジャンケン抽選の行方は8人終えて4-4 財原監督(30)に全てを委ね…

  全国大会準決勝進出。もちろん、絶対的な自信を持ちながらゲームに引き分けた後のジャンケン抽選に臨むこともそうなのですが、全力疾走してクロスプレイのセーフや得点をもぎ取る、ピッチャーを中心に全員で状況に応じた声を掛け合って、得点を与えても逆転は許さずに守り抜く、ワンチャンスを逃さずに打撃走塁連動して次の打者につなげながら攻め立てる攻撃、残念ながら準決勝は雨天での連戦での疲労も伴いつつ相手京都ビアーフレンズのかみ合った攻守の前に敗れてしまいましたが、その試合では捕手のプレイ中のけがが発生した中でも、ベンチに控えていた大森が急きょの出場にもかかわらず劣勢の試合を引き締める・大会では登板機会のなかった河井が、監督からの呼びかけに「投げる準備は出来てるから!」と応じるなどチーム全員で試合に挑む『ブルサンスタイル』を体現できた大会となりました。再び全国の各チームと切磋琢磨し、身体障害者野球を盛り上げていけることに感謝をしながら、東京ブルーサンダースは日頃の練習を積み重ねてまいります。ご支援ご声援、ありがとうございます。

準決勝 打者大森・代走財原 最強の反撃。

 第31回 全国身体障害者野球大会 戦績
(2023年5月13、14日 ほっともっとフィールド神戸・G7スタジアム神戸)

1回戦   東京ブルーサンダース4ー4神戸コスモス(抽選勝利)
準々決勝  東京ブルーサンダース4-4名古屋ビクトリー(抽選勝利)
準決勝   東京ブルーサンダース0-7京都ビアーフレンズ

大会第3位

再び歓喜を目指して進みます。

    

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