vol.52 ブルースタジオの“パートナー” はちくりはうす・竹村 眞紀さんと、編む〈インタビュー編〉
「編む、ブルースタジオ」vol.51-52では、
「ブルースタジオの“パートナー”」企画の第2弾として、「はちくりはうす・竹村眞紀さん」にお話をお伺いし、ブルースタジオとの関係や手がけたプロジェクトについてを特集します。
今回の後編は「はちくりはうす」誕生のきっかけとなった竹村さんにお話をお伺いし、「はちくりはうす」ができるまでのお話やこれからの未来のについてをたっぷりとお届けしていきます。
どうぞお楽しみください!
ブルースタジオスタッフとの仕事
ブルースタジオ柴田(以下、柴田):障害のある娘さんのためにも、いつか「コミュニティカフェ」をつくりたいとカフェスクールに通われ勉強されていたそうですが、ブルースタジオに頼もうと思ったきっかけはありましたか?
竹村さん(以下敬称略、竹村):以前NHKの某番組に大島さんが出られてご自身の仕事についてお話しされていたとき、「“建物単体で完結するのではなく、まちの中で建物が生きていく”ようなデザインをしていきたい」とおっしゃっていた言葉を聞いたとき、私もハッとしたんですよね。
確かにコミュニティカフェをつくるなら、まちに根付いたコンセプトじゃないと意味がないな…と気付いて、迷わずここに頼もうと思ったんです。
でも、そのあと仕事が忙しくなったり、親の介護が始まったりで10年くらいは何もできず…笑
身の回りのことが落ち着いていざ相談をしにいったら、イメージしていたコンセプトに即したアドバイスや情報を下さって、具現化するための知識と工夫におおいに助けられました。
柴田:そうなんですね!
私たちも、竹村さんの描いていた夢をかたちにするお手伝いができてとても嬉しいです。ちなみに、ブルースタジオスタッフとの仕事はどんな印象でしたか?(率直な感想をぜひお聞きしたいです。)
竹村:はじめは、“中古物件をリノベーション”しようと考えていたので、物件探しを不動産チームの杉山さんと行っていたのですが、なかなか理想の物件は見つからず…
30代の娘さんの今後の人生を考えるなら新築のほうが安心じゃないかとご提案いただき、“土地探し”をする方向に変換したんです。やっと土地が見つかったもの、建築計画を始めたとたんコロナやウクライナ危機などの問題により建築資材が高騰して、実は諦めようかと過るタイミングも何度かありました。
でも、その度に不動産チームの杉山さんや設計チームの薬師寺さんに励ましていただいたんです。
設計チームの薬師寺さんは子育て中なのもあって、子どもに何かしてあげたいという私の気持ちを汲み取ろうとしてくれました。
だから私も、思っていること全部叶わなくともまずは相談してみよう!って気兼ねなく話すようにしました。素人なりの意見にもそうだね!って話を聞いてくれたりと話しやすい空気感がある方でした。
皆さん最後まで共に理想を追い求めてくださり、だからこそ作り上げられたのかなって思います。
柴田:竹村さんと担当スタッフの間に、信頼関係があったからこそ「はちくりはうす」は誕生したのですね。
まちに開いた、見守る“セキュリティー”
柴田:今回の居場所づくりでは、“まちに根付く”というのがキーワードであると思いますが、目黒区というまちでどういった居場所にしたいなど大きなビジョンはありましたか?
竹村:「建物にも命を吹きこむ」そう考えていたので、「はちくりはうす」は、「みんなで一緒に生きていこうよ!」と、まちのみんなを明るく迎えいれるような建物にしたいと思いながらつくっていきました。
例えばシェアハウス部分でいうと、障害のある女の子たちが暮らす予定だったので、本来であれば塀を高くしたり、外との接点を減らした“閉ざす空間”にすることで安全性を確保する方法を選ぶと思うんですが、そうではなく、まちの人たちが関わること自体が“セキュリティ”になるような「開くセキュリティを選ぼう」って考えました。
それもあって、まちの方も気軽に参画できるコミュニティカフェは絶対にやりたかったんですよ。
柴田:確かに、建築で物理的に閉ざすセキュリティではなく、まちの人たちの目が常にあることがセキュリティになるってことですね…!
暮らしながら地域に溶け込むような場所になることで、暮らす側の人にとっては安心かつ、まちの人たちとの新鮮な出会いを日々楽しめるのは嬉しいですよね。
まちの人同士が“仲間”になること
ご縁がまたご縁を結んでいく
柴田:日替わりでお店が変わるのも「はちくりはうす」の楽しいポイントですよね。先ほどおっしゃっていたように、関わる人が増えることがセキュリティになるのもそうですが、利用するお客さん側としては出会いの幅が広がるし、参画する出店者側としても気軽に自分のやりたいことに挑戦できて、Win-Winな印象がありますね!
竹村:ちなみに今日の「SHERRY」の店主は、娘のヘルパーとしてずっと働いてくれている方なんですよ。いつかお店を開いてみたいって言っていたので、一度お試しで料理を作ってもらったらそれがすごく美味しくて…!それならヴィーガン料理のお店をここでやってみないかと声をかけました。
今も新メニューの味見をしたり、量が多すぎないかなど、一緒になって方向性を考えたりしています。
柴田:お互いが仲間となり、共に試行錯誤をしながらも生き生きと日常を楽しんでいる雰囲気がありますよね。
竹村:他にも、お客さんとして遊びに来ていた近隣の方が、卵アレルギーがある息子さんのためにパン作りを始めたとお聞きして、味見をさせて頂き、その美味しさにびっくり。いつかパン教室を開きたいというので、せっかくなら宣伝も兼ねてパン屋さんをやってみたら?と誘ったんです。
それが毎週月曜の「おひるねベーカリー」なんですが、午前中だけの開店なのでお子さんたちが店名も考えてくれたのだそうですよ。
柴田:とてもチャーミングな名前で、かわいいですね。
「まずはここでやってみない?」って竹村さんに言われたら、私もちょっと勇気を出して挑戦してみようかなって思う気持ち、すごくわかります。背中をぐっと、優しく押されている感覚…
竹村:関わる人も増えていく分、些細な問題もでてきて大変だなと思うこともあるけれど、私も間に入って共にどうしようかと問題を解決していければいいかなと。
柴田:障害のある人もそうでない人も「はちくりはうす」を通して仲間となり関係性を育んでいくことは簡単なことではないと思いますが、自らの方法を模索しながら、距離感を育む日常も大切な時間になっているように感じます。
ささやかな喜びを共有する
柴田:1階のカフェは、まちの人たちと暮らす人がつながる“居場所”となっていますが、最上階の「はちくりBASE」も暮らす人たちにとっては、心地よい“居場所”ですよね。
柴田:窓が3方向にあるのでいつでも空が隣りにあるように感じます。陽がリビングに優しく差し込み、気持ちが豊かになる気がします…それに、なんだか空が広く感じます!
竹村:テラスからの景色はとても気持ちよくて、東京タワーも見えるんです!この景色を見て、仲間たちとよく「ここの景色は神様の贈り物だね」って話したりしています。
柴田:確かに、この景色があれば嫌なことがあっても気持ち晴れやかにしてくれそうです。
ちなみに、ずっと気になっていたんですが…窓辺に“ちいさな仲間たち”がたくさんいますよね?
竹村:ふとした時にも笑顔が生まれるように、窓辺に愉快な仲間たちが待機していたり、お手洗いにパラパラ漫画を置いたり仕掛けを作っていまーす。
柴田:ぼーっとするのもいいですけど、何か発見や気付きが生まれるような仕掛けがあって毎日が楽しくなりそう…!
今日1日、「はちくりはうす」の中身を色々と見させていただきましたけど、人でもモノでも、ひとつひとつに竹村さんの愛情が込められているのが伝わってきます。
自分だけでなく誰かにとっての居心地の良い場所をつくるには、そういった細かな優しさや相手への思いやりが滲んでいないと生まれないのかも、と気付かされた気がします。
これからの展望
人との関わり合いを、楽しむ暮らし
柴田:最後に、これからの「はちくりはうす」の展望をお伺いできますか?もちろん竹村さんご自身のことでも。
竹村:仲間たちと関わりながら娘が暮らせる場所をつくりたいって思うようになったのも、結局は「この子は人が好きなんだ」って気づいてからなんですよね。
親として万全でもないし、いつどうなるかわからない日常の中でもし私が亡くなったとき、その出来事を娘がどれだけ理解できるのかわからないけれど、たとえ娘が不安に思っても「お母さんどこだろね~」と、隣で見守ってくれる人たちが周りにいるのは安心だし、きっとどうにかなるだろうなって思えるんです。
柴田:いつ何が起こるかわからないからこそ、いまの暮らしを楽しみながら自分のエネルギーにしていくことは、娘さんだけではなくここに関わるまちの人たち皆さんに共通するはずですね。
竹村:この建物自体を今後どのような形にして遺してゆくことが適切なのか、娘の先々の財産管理とともに考えなくてはならないことがまだまだたくさんあるので、関わり合う仲間とともに前向きに模索していかなくちゃと思っています。
あとは、出会った人やタイミングなどご縁を信じてここまで来たので、私も人との関わり合いを楽しみにこれからも暮らしていければと思います!