vol.53 「ブルースタジオのコンバージョン」、を編む
初めまして、2022年に新卒入社した設計スタッフのツヅキです。
「編む、ブルースタジオ」チームからバトンを受け取り、今回は私が参画しているプロジェクトにまつわるテーマをお届けしたいと思います。
現在は「vol.44 ブルースタジオの近未来、を編む <公の施設の「再生」編>」でご紹介した、「旧池尻中学校跡地活用プロジェクト」、「南の関うから館 改修プロジェクト」の2つの設計チームに参画しています。
この2つのプロジェクトは「公の施設」のほかに、もう1つ共通点があります。それは「コンバージョン(用途変更)」のプロジェクトという点。
コンバージョンと聞いてもピンとくる読者の方は少ないのではないでしょうか。ブルースタジオでは、コンバージョンが注目され始めた2000年代初頭から、先駆的なプロジェクトを手がけてきました。
今回のnoteでは「ブルースタジオのコンバージョン」に焦点を当て、2000年代初頭〜現在につながるプロジェクトについて振り返ってみたいと思います。
①「コンバージョン」とは?
コンバージョンとは英語で「転換・転化」を示す単語。建物の使い方(用途)を時代に合わせて転換し、新しい建物に生まれ変わらせるリノベーションのことを「コンバージョン」と呼んでいます。
例えば、
・廃校がホテルとして再生
・都会の古いオフィスビルをクリエイター向けのマンションに改修
・運河沿いの倉庫を利用してブリュワリーとして営業
などなど
使われなくなった建物が違う空間に生まれ変わるなんて、聞くだけでワクワクしますよね。コンバージョンは時代にあった形で建物を再生させる、魔法のような手段だと思っています。
皆さんの身近に用途を変えて再生された建物はありませんか?
私の住んでいる街にも、元倉庫のダンススタジオ、元学校の創業支援施設があります。「コンバージョン」という言葉は知らなくても、用途変更された施設は、今では割と一般的になっているのではないでしょうか。
コンバージョンが求められる時代
建築の需要は地域社会や人々の暮らしの変化によって変わってきます。「スクラップ&ビルド」で需要が替わるごとに建物を建て替えてきた日本では、欧米諸国に比べるとコンバージョンの事例が少ない状況でした。
そんな日本で大きな転換点がありました。
それは「2003年問題」!
2003年に都心で大規模再開発が立て続けに竣工し、新しいオフィスが大量に供給されることで、中規模以上の古いオフィスビルの需要がなくなるのではないかと危惧されていたのです。
そこで既存のオフィスビルを居住用建物に改造するコンバージョンが注目されていきました。そのような社会課題のあった2004年当時、ブルースタジオでは日本の大型コンバージョンとして先例となるプロジェクトを手掛けました。
②コンバージョンで都市の課題解決
ラティス青山(2004年竣工)
竣工当時、日本初の大型コンバーション!
「ラティス青山」は築38年の企業本社ビル一棟全体をSOHOタイプの賃貸住宅・店舗へコンバージョンしたプロジェクトです。
ビルをテナントとして使い続けてきた企業が撤去することになり、今後の活用方法を模索するところからプロジェクトは始りました。また10年後に隣地一体での再開発の可能性があり、10年間の暫定活用も求められていました。
2000年代初頭当時、コンバージョンが注目されていたにも関わらず、大規模改修のコストがかかりすぎて経済性が成り立たないケースが多かったようです。ブルースタジオでは他のプロジェクトと同様に、時間の蓄積の価値という、地域の中で建物が都市景観の一部として担ってきた役割や周辺地域の人々との関係性に着目し、「新築では成し遂げられないこと」に価値を置きました。
ターゲットはクリエイティブ系の小規模事業者。クリエイターのためのコミュニティの創造を目指し、周辺地域のハブとなる場所づくりをしていきました。そして室内のコンセプトは「クリエイターズヴィレッジ」。室内は必要最低限の設備にとどめ、居住者であるクリエイターによって空間を作り上げていけるようなデザインとしました。
10年間「地域のハブ」として親しまれ、多くの人や周辺地域に影響を与えた「ラティス青山」。当時を知らない私も憧れます。作り上げてきたコミュニティや周辺環境は、建物が取り壊された後も続いていることでしょう。
そして「ラティス青山」のオープンから2年後、より規模の大きいコンバージョンプロジェクト「ラティス芝浦」を手掛けました。
ラティス芝浦(2006年竣工)
竣工当時、「ラティス青山」をこえる日本最大のコンバージョンプロジェクト
「ラティス芝浦」は、芝浦運河沿いに建つ築20年のオフィスビルを、一棟貸しのテナント企業の退去をきっかけに、一棟全体を住宅へコンバージョンしたプロジェクトです。
当時はオフィスビルを住宅にコンバージョンした前例がほとんどなく、集客方法についても課題があったそうです。そこでブルースタジオでは、クリエイターや広告代理店勤務者、ガレージライフを夢見る30代・40代のターゲット層に向けて、戦略的にブランディングとプロモーションをかけていきました。
その1つがこちら。ターゲット層と合致する雑誌への記事広告の出稿をしていました。『Free&Easy』(イースト・コミュニケーションズ社)はアメリカンカルチャーをテーマにした30代〜50代をターゲットにしたライフスタイル誌(現在は休刊)。車好きのプロレスラー高山善廣さんとバイク好きのエッセイスト国井律子さんのお二人に、「ガレージハウスをどう使う?」をテーマに、「ラティス芝浦」での理想の暮らし方を提案いただきました。
「ガレージハウス」のコンセプトは「 Life with the car 」。ほかの居室タイプもそれぞれ暮らしのコンセプトをつけていました。ブランディングやプロモーションを通じて、賃貸情報ではなく「ライフスタイルの提案」を行い、集客そのものや、コンバージョンの可能性をも広げていきました。
③都市から郊外・地方の課題解決へ
コンバージョンは都市の課題を解決するための手段から、郊外や地方の課題をも解決する手段として、次第に全国へと広まっていきました。
特に人口減少の問題を抱える地方自治体にとって、使われなくなってしまった公共施設をどう活用していくのかは重要な課題。「コンバージョン」によって、公共施設を再生していくことが求められる時代になりました。
ブルースタジオも地方自治体から相談をいただく機会が増えていきました。2018年、鹿児島県鹿屋市の廃校を宿泊施設にコンバージョンした「ユクサおおすみ海の学校」をオープン。ブルースタジオでは企画・設計監理・運営を手掛けています。
ユクサおおすみ海の学校(2018年竣工)
“官・市民連携”による遊休公共不動産の活用
「ユクサおおすみ海の学校」は廃校を宿泊施設へとコンバージョン。
小学校だった歴史と恵まれたロケーションを活かし、子供たちのために、子供だった大人たちのために、体験を通して楽しみながら学ぶ場をつくることを目指す宿泊施設および観光交流施設です。
「vol.40 プロジェクトのビジョンを生み出す合言葉「物件から物語へ」(後編)」で「ユクサおおすみ海の学校」の物語のプロセスをお届けしています。
現在参画している「南の関うから館 改修プロジェクト」も、町営の日帰り入浴施設を図書館や集会所などの多世代交流拠点へと転用する、地方のコンバージョンプロジェクトの1つです。
建物の「使い方」をリデザインすることで、使われなくなった建物が地域のコミュニティを育む場へと生まれ変わります。
④コンバージョン設計の裏側から
これまでブルースタジオのコンバージョンプロジェクトを振り返ってきましたが、建物の用途を変えるとは具体的にはどのような作業が必要なのでしょうか?
「オフィスをカフェにします」と届出を出すだけ…にはいかないのです。元々の設備のままでは、用途によって求められる構造や防災基準に満たない可能性があります。そのため確認申請をし、工事を行うなど、変更後の用途に適合した建築基準を遵守することが求められます。
例えば、学校の一部を事務所にする場合、排煙設備や消防に関する基準が厳しくなり、排煙設備を追加や、防火設備を新たに設置する必要が出てくるーーなどなど、一筋縄ではいかないのが現状です。
見せない部分のデザインの大切さ
コンバージョンやリノベーションの設計は空間をデザインする華やかな設計だけではなく、建築基準法や消防法、自治体ごとの条例を読み込み、解釈し、建築主事と協議を繰り返すことでデザインに落とし込んでいく…という地味で堅実性が求められる設計の仕事が大半かもしれません。
コンバージョンのプロジェクトを通じて、法令を遵守するための「見せない部分のデザイン」にも設計者の苦労と工夫が詰まっていることを知りました。法律で規定される構造や設備を自然に見えるようにまとめることが、空間全体の居心地の良さにつながっていくーー誰も見向きしない、なんの変哲もない部分に、担当者の汗と涙が詰まっている可能性があります(笑)
コンバージョンは難易度の高いリノベーションではありますが、地域のコミュニティや街の未来につながる、やりがいのある楽しい仕事だと思っています。「旧池尻中学校跡地活用プロジェクト」、「南の関うから館 改修プロジェクト」、2つのプロジェクトは共に現在着工中!
大きい規模の現場は初めてなので、毎週の現場定例では学ぶことが盛りだくさんです。まだまだひよっこですが、読者の皆さんに足を運んでいただけるその日に向けて、日々頑張っていきたいと思います。
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