vol.14 自由で自在な「公営住宅」を、編む
2022年も終わりが近づいてきています。
今年はどんなことがありましたか?
ブルースタジオでは働くスタッフに向けて、
インナーブランディングの一環としてワークショップを行いました。
そこで行った企画の一つが、「私が紹介するブルースタジオ」。
くじ引きで選んだ属性の相手に向けて、
自分ならばどんな風にブルースタジオを紹介するかを発表するものです。
この企画は同時に、普段、それぞれの場所で、それぞれの考え方を持って、さまざまな業務にあたるスタッフが、お互いのことを知る機会でもありました。
これから新たな暮らしをつくる個人のお客様、
賃貸物件で生活する入居者様、
地域やその場所をより良くしたいオーナー様、
新たなライフスタイルを提案したい企業のお客様、
日々それぞれのスタッフが、さまざまな方と業務にあたっています。
前置きが長くなりましたが、
今回は自治体と一緒につくる「公営住宅」がテーマです。
設計だけではなく、
エリアビジョンづくり、ブランディング・プロモーション、リーシング、管理など、さまざまな業務を、さまざまな方とのコミュニケーションのなかで積み重ねてきたブルースタジオ。
“公営”だからこそ、
住まう人だけではなく、使う人、働く人、憩う人など、その地域で生活する人々それぞれの暮らしがより自由に、分かち合い、繋がれるように。
これから新たな暮らしがはじまろうとしている物件、
人々の暮らしが醸成しはじめた物件、
2つの事例を通してお届けします。
双葉駅西側地区災害公営住宅プロジェクト / 双葉町 駅西住宅
暮らしのよろこびを分かち合う“中間領域”
2022年8月末。
双葉町の特定復興再生拠点区域の避難指示区域が解除され、再び居住が可能になりました。
そしてその約1ヶ月後、
双葉駅の西口をおりてすぐ目の前、「双葉町 駅西住宅」の鍵引き渡し式が行われ、第1期の入居が開始しています。
「双葉町 駅西住宅」はブルースタジオが企画と設計を手がけた全86戸の公営住宅です。
震災当時に双葉町民だった方が対象の「災害公営住宅」と、
新たに双葉町に転入される方も対象となる「再生賃貸住宅」の2種類の住宅があります。
「ふるさと双葉町に帰還を目指す人」も、
「双葉町の未来を新天地に据えて移住を目指す人」も、
双葉を愛する仲間たちが一緒に暮らしを育むことができる場所。
駅西をきっかけに、暮らしながら「双葉町に未来」を考える、はじめる場所。
そんな場所になることを目指しています。
住宅には、暮らす人々それぞれの個性的な生き様をみんなで分かち合う暮らし、「なりわい暮らし」が行うことができる“中間領域”が随所にあります。
自分の趣味や好きなことといった暮らしの喜びを、家の中だけではなく、お隣さんや通りかかる人たちと分かち合えるような、
室内でありながら外に開くこともできるガラス引き戸の土間玄関や、
ご近所さんと腰掛けておしゃべりできる縁側。
また、住まう人、そしてその仲間たちとの暮らしを育むことができるような共用施設も整備が進んでいます。
双葉町がこれから新しい未来を築いていくため、そのきっかけの一つになる「双葉町 駅西住宅」のプロジェクト。
震災当時双葉町民だった方、新たに双葉町に移住を考えている方、また双葉町のこれからの未来を応援してくださる方など、
多くの方が参加できる座談会も重ねてきました。
そして9月末に迎えた鍵引き渡し式では、共用施設の一つである集会所を使って入居者の顔合わせも行われました。
標葉の谷戸に抱かれた 仲間と共に育む なりわい集落
かつて相馬領であった「標葉」の地に位置する双葉町。
その地理的な特徴である谷戸では古くから農耕が営まれ、暮らしが育まれてきました。
「双葉町 駅西住宅」も谷戸の情景の中に抱かれるように佇んでいた農村集落になぞらえて、屋根の形や軒の連なりをデザインしています。
広場から放射状にのびた路地は標葉の情景へとつながり、
それぞれの暮らしぶりや自然環境を身近に感じながら生活ができるように、整備が進められています。
北条まちづくりプロジェクト / morineki
様々な人びとが繋がるきっかけとなる“曖昧な境界”
2022年の夏。
大阪府大東市にある「morineki」ではイベントが開催されていました。
まちびらきから約1年半、老朽化した公営住宅の建て替えのみならず、都市公園や道路、橋梁、河川の風辺環境を含めて再生した「morineki」は、市営住宅・テナント・都市計画公園の3つに敷地が分かれていながらも、全体が公園のように連続しています。
この日行われたイベント「~食べて!みて!きいて!楽しめる!~morineki〝夏あそび″」ではワークショップやマルシェ、演奏会など、
入居するテナント・ノースオブジェクトが主催となり、入居者だけではなく様々なエリアから多くの方が訪れるイベントとなりました。
住まう人も、働く人も、憩う人も。
それぞれが繋がるきっかけとなる“曖昧な境界”が「morineki」の各所にデザインされています。
中庭・ベンチ・玄関ポーチ・ガラスの引き戸によって柔らかくつながる「もりねき住宅」の住戸の内外、
中庭は隣接する都市公園「もりねき広場」へと繋がります。
さらに都市公園に隣接するテナント棟は公園の中に店舗があるかのような、そんな境界を感じさせないデザインになっています。
権現川の恵みから、実り多き大樹を育てる 北条の樹
“北条の樹”という北条まちづくりプロジェクトのグランドデザインの第一段階としてできた「morineki」。
北条地域の象徴、飯盛山を水源とする権現川を水の流れ、
北条12号線を幹ととらえ、
市の遊休資産・施設などの場所に色とりどりの果実(地域内アクティビティ)を描いて地域一帯を大樹に見立てたグランドデザインは、その作成など「morineki」の設計前段階から市民とのコンセンサス構築を行っています。
公民連携の事業手法で実現した、国内初の市営住宅建て替えプロジェクトである「morineki」は、ビジョンに共感するテナントとして民間企業のオフィス、店舗を誘致することで、さらなる活発な活動と賑わいの場を創出し、持続性ある街づくりを実現するプロジェクトです。
All the world's a stage,
その地域で生活する人々それぞれの暮らしと繋がる「公営住宅」。
住まいの内と外の関係をデザインすることで、住まう人同士を、地域で生活する人を
住宅全体と地理的/歴史的な背景の関係をデザインすることで、人々と、地域の誇りを繋ぐ場所を目指しています。
住まいでありながら、人々の暮らしづくりでも、地域づくりでもある「公営住宅」。
さまざまな方と業務にあたるスタッフだからこそ持てる多様な視点で、
一人ひとりの暮らしとみんなの暮らし、両方が自由で自在になる「公営住宅」をつくっています。