おそらく西風が吹いている日
風は水色をしている。太陽は明るく、土からは新鮮な緑の匂い。一歩あるくごとに陰が翻る。
自転車に乗って出掛けた。今のところ平日に勤務のある私は、買い物の必要があれば日曜祝日に出掛けるしかない。しかし空は清々しく晴れている。「春の陽気」の見本に保存したい位の日だ。こういう日の自転車はことさら気持ちが良い。しかし歯車の錆が相当酷い。ペダルが重いだけでなく音も煩い。新しい自転車が欲しい、でもこの自転車にも思い入れがある。右往左往しながら、飛行機が翔ぶ場所まで行った記憶。
土手の上の道を走る。河川敷には、去年の台風からまだ片付けきれていない枯葉の山。それでも人は歩いて、走って、凧を揚げる。肺に春を充填しなければ、夏の濃い熱を乗り越えられない。どうか今だけでも、手は繋がないから。
駅を歩いても自分の足音が聞こえる。改札はシエスタのローマのように広い。あらゆる広告が白々しくなる。水槽のフィルターを購入して帰る。
夜は静か。エンジンのうねりも鳴らず、全てが息を潜めていた。