襟には5年前からヤモリのブローチ
私はあまり厚着するのは好きではない。厚ぼったいものを身にまとう感覚が好きではないし、重ね着はコーディネートを考えなければいけないのが億劫だ。いつも肌着に薄手のシャツ一枚ぐらいでいたい。
それでもコートは好きである。適当な服を着ていても誤魔化せるし、何よりポケットがある。スマートフォンやメディアプレーヤーを入れておけるので、電車の中で鞄をあさらなくてもすぐ“定位置”にたどり着くことができる。
それとポケットに缶コーヒーを入れておくのが好きだ。自動販売機から出てきた190gの熱い缶をポケットに入れる。指先で転がすと熱が手首を登ってくる。腿に触れる、サラマンダーの卵はこんな温度だろうか。ほどよく温かくなったコーヒーを飲むのは駅のホームか河川敷、乾いた唇にスチール缶、冷えた肺の間をエネルギーを持ったカフェインが降りていく。
このコートを何年前に買ったかは覚えていない。でも今年もポケットにバッハと平沢進を入れて、氷る空の下を歩くだろう。
今日の英語:Pocket