区切られた世界の経線のように
かねがね行ってみたいと思っていた場所に立った。湾の中にある人工島とそこに掛かる橋だ。
その人工島は私の居住地から橋の対岸にある。橋も自動車専用のため、通過はすれど訪問の機会を得ることができなかった。しかし人工島の公園が初心者向けの釣りに優れているという情報が入り、下見がてら訪問することができた。
私は自然破壊は反対だが巨大構造物に魅力を感じるという二律背反な価値観を持っている。そしてここは海を埋め立てて造られた人工島。いつかこの島を苔と錆に覆われて完璧になる日はくるだろうか。
今日の天気は曇り。一般的には『あいにくの』となるのだろうが、この橋と周囲を撮影するには『この上ない』だ。地表面から天頂まで雲が埋め尽くして都市の主張が遮断されている。小さな球体に納められた、ディストピアの箱庭のようだ。
人工島から橋へはエレベーターで上がれるが、橋の反対側へは降りることはできない。徒歩の存在にとってはこれは橋ではなく展望台だ。太陽は薄いが湿度が高く猛烈に汗をかく。自動販売機でコーヒーを買っておいて正解だ。
橋はその下部を貨物船が通るためかなりの高さがある。それなのに歩道の横を車が走り抜けると振動を感じる。あえて揺れる構造にすることで橋脚の負荷を減らしている、のかもしれないが、海面を50mの下に見ている状況での振動は中々にゾッとする。こちらはただの生身だ。
橋を支える鉄骨は文字通り剥き出しの骨のようだ。合理的で無駄の無い、生きた数学。
橋の上から何枚も写真を撮ったが、どう角度を変えても茫漠とした美しさを写すことができない。水面の無慈悲、鉄の重量、雲の奥深さ。撮影は諦めて全身で味わうことにした。
私の眼は知っている。
私の居住地からこの人工島に来るには自動車が最短だ。公共交通機関を乗り継いで来れなくもないが、相当に遠回りして時間をかけなくてはならない。やはりペーパードライバーの身分に甘えていてはいけないということか、それとも1人乗り電気自動車。
曇りの水平線を見ていると円盤状の地球はこういうことかと思えてくる。次はよく晴れた日に、水平線に消失する船の後ろ姿を眺めに来よう。
今日の英語:Gate bridge