見えぬ真綿に包まれたように
このまま進むかいつか戻るか。不可視の自然の冷徹。
エレベーターに乗った瞬間、手すりを掴もうとして慌てて手を戻す。むやみやたらにあちこち触っては行けない。今までエレベーター周辺では安全のために手すりに掴まるよう啓蒙の掲示や放送が恒常的にされてきたし、私もそれを守るように。だが今ではそれよりも接触点を減らすことが優先される。階段でも手すりに伸ばした手を泳がせてしまうことがしばしばだ。
電車でも「お近くの手すりやつり革に」というアナウンスを聞かなくなった。しかし乗客数も減りダイヤに余裕ができている現在、その必要性も薄れているのだろう。特に学生が多かった私の通勤経路ではそれが顕著だ。明るい風通しの良い電車。ふわっとした距離感、それはいつまでも続くのだろう。これが「普通」になるのだろうか。
糸からこぼれ落ちた数珠のように、接すること無く転がり続ける。