全ての想定が崩れても

 それでも日常を過ごさなければならない。賢も愚も、生まれてくるこれからの命も。

 私の職場に入院している最中にコロナ感染者と濃厚接触していたことが判明した件のA氏、PCR検査の結果は陰性だった。ひとまずは安心したものの、いかに容易にウイルスが伝播するか思い知らされた。

 私はこの新型コロナウイルスは数か月程度で終息するとは思っていない。現在罹患している人は回復すれば免疫がつくかもしれないが、人口比ですれば❝まだ❞罹患していない人間の方が多い。どれだけ防疫を徹底しても、未感染者が存在する以上は感染爆発の可能性は残り続ける。

 現時点でも感染は北極圏近くの国から赤道近辺の地域まで広がっている。気温の変化で打撃を受けるというウイルスでもない。ワクチンの開発は早くても1年後。どれだけ増産に力を入れたところで全地球人口と同じ数を用意できるはずもない。コロナウイルスより毒性の高い感染症は数多くあるが、撲滅できたのは唯一天然痘だけだ。そもそもこのウイルスをわざわざ『新型』と冠しているのはコロナウイルスがありふれた既知のウイルスだということ。更なる『新型』コロナウイルスが現れないとも限らない。インフルエンザウイルスも人間の予測を超えた型が毎年やってきている。

 映画や小説でパンデミックを扱ったものはあるが、こんなに毒性が低い感染症を描いたものはあったのだろうか。今や世界中が目に見えて変わりつつある。可聴域の外側にある悲鳴を聞かされ続けているかのような、恐ろしい茫漠が広がっている。

 確かなのは、このパンデミックがいつ終わるか分からないということ。備えなければならない。生き延びるために、転換後の世界でも生きるために。

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