これで針に糸を通せば土も掘る

 私は自分の手が割りと好きだ。平均より骨太で指が長め、握力が効いて楽器演奏向き。手袋を買う時は慎重な吟味が必要になるが、太くて頑丈な頭髪とともに自分のパーツでお気に入りのもののひとつだ。
 しかしながらその手指の先端にある爪はいささか珍妙なバランスをしている。指に対して爪の面積が狭く、しかも爪の生え際が指の頂上から2mmほど後退している。中でも薬指は爪の生え際が指の付け根に向かって弧を描いている、一般的には指の先端に向かって弧を描くものなのに。

 そのため私の爪は生え際に沿って切ってしまうと大豆のように小さくなってしまう。薬指に至っては生え際に爪切りの刃を届かせるのがほぼ不可能。そのため私の「爪切り」は3段階の工程がかかる。

① 通常の爪切りで大まかに切る
② 爪やすりでカーブを整える
③ 爪磨きで毛羽立ちをとる

 足の指は①のみで、両手両足すべてでおよそ15分ほど。手の③は不要といえば不要だが、爪は手という好きなパーツの一部なのだからそれくらいはというなけなしの乙女心だ。ちなみに爪そのものは頭髪と同じく非常に頑丈で、滅多なことでは欠けも割れもしない。

 そして私はこの指でバイオリンを弾き爬虫類の世話をする。職場ではキーボードを叩き電球を交換しネジを回す。よく磨いた職人のツールだ。


今日の英語:Nail

いいなと思ったら応援しよう!