ライブハウス其の四


ライブハウスで働き慣れて出演バンドも増えて忙しい時期を過ごしていたら、店をクビになったPAのオジサンと連絡が急に取れなくなった

少し心配になった私は自宅兼レコーディングスタジオに様子を見に行き 呼び出しベルを鳴らしたが無反応だった

不思議に思い、帰ろうとするとパトカーが突然やってきた

近所の人から通報があったらしい

訪ねただけで通報?と少し不思議に思い

警察官と少し話すと具体的な話は無かったが、何となくPAのオジサンがパクられたというのが伝わった

「しばらく会えなくなったんだなぁ」と思い家に帰ると

次の日に阪神淡路大震災があり

テレビを点けると、色々な家屋が地震による火災で焼けている

いつまでも火災が続いていたのを見て私は「多分この国は連携が取れていなく 誰かが何とかしてくれると期待しかできないダメな国なんだ」と感じたのを覚えている

しばらくして地下鉄サリン事件が起こり、私は以前はイロモノ宗教としてしか認識していないオウム心理教が起こした事件だったので驚いた

その時期に弾き語りで出演していた怪しい兄ちゃんとバンドを組もうかって話になってスタジオに入ったが、彼はバツイチで別れた奥さんとの間に生まれた娘に未練があるらしく 寂しさを紛らわす為にバンドを組もうとしていたので途中でバンドを去っていった

その男から地下鉄サリン事件は必要悪だったと言われた時に、マジで殴りそうになったのを覚えている

男は私に出会う前に高知県に行き酒とドラッグをやり過ぎてイカれてたみたいで見ていて、精神病の患者というのは意外と身近に現れるもんだなぁと感心した覚えがある


その男とは何度か一緒に音を出したが、ナルシスト過ぎて周りの人間に何も残せない男だった事は覚えている

本人は認めたがらないが一番良いのは別れた娘に会い謝罪するなり何か共有する事が気持ちの浄化に繋がると第3者として見ていて思った

あまり、良い出会いに恵まれなかったがドラムを叩く事は相変わらず気持ち良く楽しかった
成人式の日もライブをやって後日地元の友人から叱られた

だんだん、ライブハウスのスケジュールもフル稼動に近くなりだした

ボーカルスクールの講師達の実力が、それほどでは無いと分かってはいたが
給料を聞いて貰い過ぎだと感じた

ショービジネスも結局は結果である

例えば、教え子の一人でもメジャーデビューでもしてりゃあ話は違うが

高いレッスン料を払い続けられる裕福な家庭の娘さん達が講師達の出す課題曲を練習するが、とりたてて何の苦労も情熱もなく

海の向こうの数々の苦難を乗り越えて名曲を歌ってきたシンガー達の歌を真似しろってのが無理な話だ

これは持論だが、練習すれば ある程度は成長するかもしれないが歌なんてもんは、生まれた時に資質はほぼ決まってるもんだと思う

あと、どうやら講師達はレッスンに来る生徒さんを数名愛人にしているのも分かった

これには、マジで腹が立った

愛人の生徒さんは美人ばかりだったからだ
羨ましくもあり腹も立った

これはモテないバンドマンのやっかみみたいなもんだが、しょうがない

あと、生徒さん達が全員裕福な家庭の娘さんばかりではなく中には水商売や風俗店で働きながら高いレッスン料を払いながらボーカルレッスンを受けている生徒さんも居た

普段、汗臭いバンドマンとロックな客ばかり相手にしているので多少は贔屓目に見えたのかもしれない

そして高額過ぎる給料をめぐり経営者側とスクール講師側の対立が始まり、発表会をライブハウスでは出来ない事になると講師達は生徒さん達を引き連れ去って行った

後釜の講師達は毒の無い普通の方々で、安心した

その日はライブハウスの仕事が終わり駅前の居酒屋で店長と飲んでいると、店長がPAのオジサンからドラッグを購入していたと思わぬ告白があった

売人をやっているとは知っていたが、身内にまで売りつけていたとはビックリした

店長は残りの分の処分をどうしようか迷っていたが、あまり興味が無いので特に聞かなかったが少し心配になった

しばらくしてPAのオジサンが店に出演していたバンド等にも売っていたというのが判明した

突然、数名の刑事が店に捜索令状を持って来たのだ

出演者の何名かが逮捕されて自白して店が怪しいという事になったらしい

バンドの入り時間ギリギリまで刑事達が色々と探していたが結局何も出ず諦めて帰っていった

店長が焦っていたので、とりあえずドラッグを少しの期間預かる事にした

勿論、私の自宅以外の場所でだ

翌日の早朝に店長のアパートに刑事達が来たらしい

間一髪だった

ドラッグを預かり友人に預かって貰った

しばらく店長は鬱状態みたいだった

そして上手い具合にドラッグが抜けた店長が「アレ、もう要らないから処分しておいてくれ」と言ってきたので高知県帰りの狂ったシンガーに全部あげたら、一年後に金髪のおかっぱ頭で眉毛を全部剃り落として瞳の瞳孔が完全に開いた状態で現れた

恐らく、元々少し狂っていた彼にドラッグを大量にプレゼントしたもんだからハマって完全にキチガイになってしまったらしい

人の気持ちなんてもんは髪の毛一本分のドラッグぐらいで、簡単に変わってしまうもんだ

その時に狂人というのは、ある種の才能かもしれないと思った

私にも責任はあるが、狂った人が近くに居ると色々と面白い事が起こる

負けず劣らずキチガイな16才の少年がライブハウスに入り浸っていた

高校にも行かず中学にもほとんど通っていなかったみたいだ

店は仕事を探していた少年をアルバイトで雇うことにした

中高と学校に行かなかっただけありギターは上手かったが、今にして思えば楽器を奏でる肝みたいなもんが足りない少年だった

その時に出来た人間関係でバンドみたいなもんをしたが、行動が前に進まなかった

当たり前だ、リーダーを気取ったシンガーが狂人だから物事が前に進むわけがない
 
やはりタフじゃない奴には主導権は握らせない方が良い

色々な出会いがあったライブハウスは四年働いて辞める事になる

社長と喧嘩してしまったのだ、今にして思えば社長はノイローゼで私は疲れが溜まっていた

一緒にライブハウスで働いた仕事仲間とは時々、無性に会いたくなるが中には亡くなってしまった人もいる

まだまだここには書ききれない思い出があるけど、墓場にこの想いは持って行こうと思う

今はライブハウスはそれ程盛り上がっていないかもしれないが

私にとってライブハウスは、どんな貧乏人だろうが不細工だろうが下手糞だろうがステージに立って歓声を浴びればロックスターになれるのだ

その事に気付けない人はライブハウスから去れば良い

その魅力に取り憑かれた人はライブハウスから離れられない

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