NEW LIFE‼︎‼︎
4月の陽射しはすがすがしく、まぶしかった。
冷えた空気にも春の到来を感じさせ、なんともいえないまろみがある。
予備校という組織に属していると、季節の移ろいを感じることもなく、ただ月日だけが過ぎていく。
そんな生活にようやくピリオドを迎え、春から大学への進学が決まった。
第1志望ではないものの自分では予想していなかった私立大学に拾ってもらい、あまり迷うこともなく葛飾大学に決めた。
葛飾大学といえば、世間からの評価は「どこ、それ。MARCH以下?」「葛飾大は留年で厳しい大学」「北に飛ばされる」など、良い噂は耳にしない。
とは言うものの、進学が厳しい分大手企業への就職も抜群によく、一概に悪い大学と言えないのも事実だ。
小さな頃から父の影響で飛行機に乗る機会が多く、自ずと飛行機に興味が湧き、進路を聞かれた時には必ず「パイロット」と答えていた。
なぜパイロットになりたいか
「飛行機が好きだから」「事故をなくしたいから」「空を飛んでみたいから」
いろいろな理由が考えられるが、
幼稚園から貰った子供向けの雑誌にコックピット内のパイロットの写真があり、その時直感的に「これになりたい‼︎‼︎」と感じたことが1番の大きな要因だと思う。
高校1年の進路相談の際、軽い気持ちで
西海大学 工学部 航空操縦学科 と
書いてみた。
もちろん軽い気持ちで書いたから、先生からダメ出しを食らう。
先生からの指摘は、経済的な問題だった。
一般的に、私立大学の航空操縦学科は約1500万〜2000万円はかかる。
一般家庭育ちの自分には、それが諦めざるを得ない現実 ということがすぐに理解できた。
次に興味があったのが「情報通信」ということもあり、大学の志望学部は工学部の情報通信系を考えた。
◆◆
あたりを見渡してみる。
教室にいる学生は、ざっと120人といった所か。
たとえ自分が浪人しているからといっても年の差はたった1歳しか離れてないのだが、みな同い年のように感じる。
ガイダンスや新歓が終わり、いざ授業が始まってみると大学の大変さがよくわかる。
まだ大学に慣れていないというのもあるのだが、レポートの書き方や実験の方法など戸惑う所が多々ある。
しかし、友だちや先輩に恵まれ良いスタートを切れたと思える。
留年に厳しい大学ということもあり、みんなの授業に対する意識は高い。
少人数でのディスカッションでの彼らの頭の回転の早さやボキャブラリーの多さには、圧倒される。
この時期、教室や学食での会話といえば
「バイトは何にするか」「部活・サークルはどうするか」「カノジョが欲しい…」「あの授業取った?楽単らしいぜ」という話題をよく聞く。
もちろんよく自分も友人とそんな話をする。
生産性のある会話とは思えないが、1年前の生活を考えると、そんなたわいもない会話ができることが嬉しかったりする。
同学科の友人と新歓イベントにも顔を出し、夕食を奢ってもらったり、飲み会の洗礼を受けたりもした。
そんな中、自分が決めた部活は、「航空部」
航空部というと「あっ、琵琶湖でよく飛ばしてるやつね!」とよく言われる。
どうも鳥人間コンテストの印象が強いらしいが、航空部はグライダーを飛ばす部活だ。
簡単にいえば、鳥人間=機体作り、航空部=パイロット といったところか。
そう、自分の夢であるパイロットに近づくにはもってこいの部活。
そういうわけで迷うことなく、体験フライトの申し込みをした。
◆◆
「思い立ったらすぐ行動」
自分が20年間生きてきた中でのモットーだ。
チャンスはいつ来るかわからない
いま思いつたなら、いまやればいい
いつまでも石橋を叩いて渡ってる慎重で用心深い人は、いつかその石橋を壊してしまう
そうな風に自分は考える。
4月中旬のある日曜日
青く澄み渡った空の下、自分は2年生の先輩と一緒に千葉県の滑空場に向かうバスに乗っていた。
最寄駅からバスで約20分の所に位置する関宿滑空場は、利根川と江戸川の両川に囲まれている。
「体験フライトするならいつがいい?」
先輩から聞かれ、「今週末で!」と答えた。
土手を降り、人が集まるテントへ向かう。
事前にお会いした先輩もいらっしゃったが、まだ見ぬ顔の先輩も多かった。
葛飾大学の航空部は国立大学 大岡山大学と合同で活動している。そのため「お堅い理系頭」ばかり集まるのでは?と予想をしていた。
しかし、その予想とは大きく異なり皆さん、優しく温かく迎えてくれた。
それが自分には素直に嬉しかった。
各先輩、教官方に、軽く自己紹介を終えると、搭乗する教官からフライトの説明を受けた。
「曳航機に引っ張ってもらい
上空1,500フィートで切り離す。
そこから、少し飛んで降りてくるよ
約15分程度のフライトになると思うよ」
グライダーは、無動力飛行機。
つまりエンジンが付いていない。
それじゃあ、どうやって飛ぶのさ!
そう思われるだろう。
実は、グライダーが空を飛ぶのは2種類ある。
1つ目は、ウインチ曳航という方法
約1000mのロープの端をグライダーに取り付け、もう一方の端に置いたウインチという機械で巻き取り、グライダーを一気に加速させて凧のように上昇させる方法
もう1つは、飛行機曳航という方法
エンジンを持つ小型飛行機(曳航機)と、エンジンを持たないグライダーをロープで結び、グライダーを牽引して上昇させる方法
いずれも紐が切り離されてからは、自らが上昇気流(サーマル)を見つけて飛ばなければならない。
グライダーの面白さはそこだろう。
関宿滑空場では、2つ目の飛行機曳航を行なっている。
いよいよ、離陸
非常時の脱出方法、触れてはいけない部品の説明を受け終わり、キャノピーが閉まる。
「ジュリエット アルファ 0101
Wind 190 at 14kt
Runway B is clear」
ピスト(地上無線局)から無線が入る。
次の瞬間、曳航機のエンジン音が上がり動き出す。
自分の乗るグライダーもそれに吊られ、どんどんスピードを上げていく。
旅客機でもそうだが、この離陸の加速Gがたまらなく好きだ。
この強い力が 飛ぶぞ‼︎‼︎ という気持ちにさせてくれる。
ほんの10秒だろうか。
ゴーーというタイヤが地上滑走している音が消え、一瞬にして宙に浮きあがる。
外を見渡すと、いままで見たことのない景色が広がっていた。
地上のクルマは小さなアリが一列群れをなしているように見えたり、畑や住宅地はミニチュアのように見えた。
風が少々強く、時々 ふわぁ とGが抜けた。
正直、あまりこの感覚は好きではない。
というよりか、少し怖いとも感じる。
「堕ちない」と分かっていても、恐怖心が出てしまう。
そのためフライト中はずっとショルダーベルトを掴んでいた。
着陸後は教官さんと今回のフライトについて話をした。
自分の疑問点は、「どうやってサーマルを見つけるか」だった。
空には目印があるわけないのだから、上昇気流のある場所がわかるのが不思議だった。
その教官さん曰く「雲を読む」ということだった。
雲にもいろいろ種類があるでしょ?
例えば、あの雲見てごらんよ
いまはあんなちっちゃい雲だけど、数分後もう一度見直してごらん。
大きくなっていくから。
雲ってのは水蒸気の集まりだろ?
雲の出来方は中学の時、習ったろう?
ああいう雲が発達していくということはだ、大きくなるだけの要因がある
つまり、水蒸気があの雲に流れていく流れがあるんだ。
そういうところを見れば、サーマルを見つけられるんだ
いままで空を眺めるのは好きだったが
そういった視点で空を見上げたことがなかった。
その時、この部活に入れば、自分の持つ知識がさらに増えていく可能性を感じた。
先輩には航空大学校への進学が決まった人や、自社養成パイロットの受験中の方がいる。
自分の進もうと考えている道を先に行く方がいて、とても刺激を受ける。
これからとても充実した生活が過ごせそうだ。
さぁ、まずは先輩に追いつこう!!