【治療日記36】戻ってきた「日常」を手放したくない
治療のおかげで、再発ガンそのものは縮小してきたし、前と同じような日常生活も送れるようになってきた。
レンビマという薬を減らしたので、副作用も以前ほどはひどくない。ただ、それは自覚症状であって、数値的にはいろいろと異常が出てきている。
前回、甲状腺機能の低下で、不思議な数値が出ているということで、頭のMRIを撮った。甲状腺を司る部位に何かできているかもしれない、とのことで(こわっ!)、念のための検査だった。
結果から言えば、脳には何の異常も見られなかった。それは本当にホッとした。
でも、「じゃあこの数値は何なの?」ってことになって、今度は甲状腺ホルモンの薬を増やすことになった。これでしばらく様子を見て、また来月半ばに血液検査だ。
やはりレンビマという薬は確かにガンには「効く」けれど、その分、体の中ではいろんなことが起きているのだなと思う。
そしてもう一つ、いつも書いている高血圧のことだが、こちらもどんどん高くなってきて、今の降圧剤では戻らなくなってきた。
降圧剤を飲んでいても180を超える日があるし、朝から150を超えることも増えた。
3月から毎朝晩、血圧を記録しているので、この2ヶ月くらいで異常に上がっているのは明白だ。
急に寒くなったことも影響していると思う。冬のほうが血圧は上がりやすいそうなので。
とはいえ、さすがに家にいて200を超えることがあると怖くなる。主治医に相談したら、「えっ!それはあかん。そんなことで血管切れたら元も子もない。すぐ内科行こう」と、その場で院内の総合診療科に連絡して、翌々日の受診予約をとってくれた。
この連携、このスピードが、なんともありがたい。
昨日、血圧の専門の先生に診てもらった。
前とは違う先生で、メガネをかけ、ひょろっとした気の弱そうな若い男性。声もすごく小さい。
でも、頼りになった!
とても丁寧に説明してくれて、私の血圧データもしっかり見てくれて、最善策を考えて提案してくれた。また、それをすべてメモに書いて手渡してくれたのだ。
結果的に、これまでの降圧剤をやめて少し強いものに変更。飲み方も変わり、血圧測定も1日3回に増えた。朝一番の測定値によって、服用する量も微妙に変えなければならない。
「ちょっと面倒だけど、とりあえず2週間やってみてください」と言われた。
確かに面倒だけど、それくらい細やかに指導を受けると、先生を信頼できる。2週間頑張って記録もちゃんとしていこうと思った。
診察室を出る時、わざわざ立ち上がって頭を下げてくれるような先生だった。丁寧で親切。細やかで優しい。私はいつもお医者さんに恵まれているなと思う。医者と患者は「信頼関係」が一番大切だと思うから、今回も信頼できる先生でよかった。
これで、甲状腺と血圧が落ち着いて、レンビマを続けていければいいな。ようやく近づいてきた「日常生活」を手放したくはない。
日常生活といえば、今週は一泊二日で高知県へ出張取材に行ってきた。治療後、初めての出張。飲食店と酒蔵の2件。
新大阪から岡山まで新幹線、岡山から高知まで特急南風。これがなかなか遠かった!!
でも、私はわりと電車の旅が好きなので苦痛ではなかった。瀬戸大橋を渡る海の景色も美しく楽しめた。
特急で2時間半。持ってきた本を読み切りそうだったので、途中でやめておいた。帰りの分も残しておかないと、と思って。
読んでいたのは、今、劇場で上映中の「六人の嘘つきな大学生」。これがなかなか面白くて。映画向きの作品でもあるなぁと思った。
どんでん返しのどんでん返し。から、もう少しだけ読者に想像を残して終わるのもニクイ。
面白い小説を一気読みしたいなぁという人にはオススメだ。映画も観てみたくなった。
取材もうまくいった。
酒蔵の朝は早い。
高知市内から車で1時間かかるところだったので、朝6時にホテルロビーに集合。
早朝の釜場に白く上る湯気。
蒸し上がった米の甘い香り。
蔵人たちが動き出し、静かな蔵が急に慌ただしくなる。
ピンと張り詰めた冷たい空気の中、私は思い切り蒸米の香りを吸い込んだ。
ただいま!
ようやくここまで回復した。
前からよく飲んでいた好きなお酒の蔵だったので、私もテンション高め。社長が気さくで面白い人だったし、5代目を継ぐ予定の娘さんがとにかく素敵な方だった。
向かい合って話しているだけで、なんでこんなにほんわかと優しい気持ちになるんだろう、と思った。彼女のあたたかい人柄がオーラや笑顔からあふれていて、眩しいほどだった。一度会っただけですっかりファンになってしまった。可愛い人だったなぁ。あんな人に憧れてしまう。
そんな感じで楽しい取材だったが、さすがにインタビューの最後の方はお腹が痛くなって辛かった。気づかれないようなんとか耐えて、車に乗り込んでからすぐに痛み止めを飲んだ。
終わったのは12時頃だった。
やっぱり酒蔵取材は、遠いし長いし寒いし、立ち時間も長いし、病身には辛いものがある。でも、なんとか終えられたことで、「今シーズンもなんとかなる!」と自信になった。件数も減らしてもらっているし、ぼちぼちやっていこうと思う。
なんにしろ、今シーズンもまた酒蔵へ行けたことが夢のようだ。去年の今頃よりよほど元気だ。
昨年、「治療が始まったら、いつ仕事に戻れるかわからない。元気でね」と言って別れたカメラマンTに高知で会い、開口一番「早かったっすね!」と言われた。
「いやー、ほんまやね。すぐ会えたね」と笑って返した。こんな日が本当に来るなんて、春頃は想像できなかったけれど。
夜はカメラマンTと営業のE本さんと3人で、ホテルの近くの居酒屋で飲んだ。日本酒が美味しくて、おしゃべりも楽しくて、ああ、またここに戻って来られたんだなぁと思ってじんわりした。
こうやって、少しずつだけど「日常生活」が戻ってきている。