教育実習生
高校2年か3年の時。
私の学年に教育実習生がいた。
ここで学年がふわふわしているのは、私自身はその教育実習生の授業を受けていなかったからだ。
同じバンドを組んでいた同級生が鼻の下を伸ばして「教育実習生が可愛い」と言っていた事だけが鮮明に頭に残っている。
高校1年生の時は、私のクラスに教育実習生がいたからよく覚えている。
その実習生は保健体育を担当していた。
保健の授業でやたらと班を組ませたがるなぁこの人…と当時の私は思っていたが、今ならその気持ちが十分にわかる。そんなふうに思う。
中学生の時。これも2年か3年だったか。
私は受けていないが教育実習生が社会の授業をしていたことを覚えている。
学校の近くのボウリング場でバイトをしていたという噂が広まり、実際にボウリング場に足を運んではその人をやんややんやイジっていたからそのことは今でも覚えている。名前はその時からずっと知らない。
私が小学生の頃。
いつ誰が何をしに来たのか全く覚えていない。
ただ覚えていることが2つ。
気まずい給食の時間と、誰かに向けて歌った歌だ。
給食の時間になると机を5人か6人くらいの班の形にしていた。
その班に机を一つ追加して、大人が1人混じって食べていた。そんな記憶がぼんやりとある。
小学生の頃から人見知りで年上が苦手だった私。
他の子達が「いいなぁ」とか「明日は俺の班ね!」と興奮している中、私だけ(気まずい!!!)としか思っていなかった記憶がある。
結果特に話らしい話もしていなかった気がするし、その人が男だったか女だったかすら忘れた。
もう1つの記憶、誰かに向けて歌った歌について。
この人は女の人だった。これだけは覚えている。
その人が学校に来る最後の日の帰りの会に、歌を歌った記憶がある。
曲は確か「大切なもの」。「空に光る星を君とかぞえた夜〜」から始まる、あれである。
曲のセンスといいサプライズといい、今の私がその環境にあったら間違いなく涙腺がぶっ壊れる。
その人が泣いたのも当然だと、今になって思う。
しかし今よりももっと人の気持ちが分からなかった少年は、(今月の歌ごときで何泣いてんだこいつ)としか思っていなかったのだ。いや、だからこそ鮮明に今でも記憶に残っているのだ。なんという皮肉。
ただその人が実習生だったのか、それともボランティアとして来ていたのか。はたまた職場体験の中学生だったのか。そんなことは当時の私にはどうでもよかったし、よくわかっていなかった。
ただその人を、1人の大人として見ていた。
歳を重ねるにつれて深くなっていく海溝の底に、小学生の頃の記憶が沈む。今まで思い出せていたことが、海が深くなるにつれて思い出せなくなる。
海の底に留まる存在に、一時的に私はなる。
ある人にとってのかけがえのない人であり、また多くの人にとっての何でもない人になる。
確実に走馬灯には残らない存在、教育実習生。
そのなんでもなさに爪痕を残せたら。
そう思います。