「自分は頭がいいから騙されない」という思い込みが危険な理由
注記:本記事は何らかの“根拠”や“実績”に基づくものではありません。詳しくは別記事「提案型無根拠記事のススメ」をご覧ください。
詐欺に遭った人は「自分が騙されるとは思っていなかった」とコメントする人が多くいます。被害者の中には高齢者も多いため、報道に接して「認知機能が低下していたんだろう」と思っている向きもあるでしょう。確かに認知機能の低下が詐欺被害の一因となったケースも少なくないでしょう。
しかし「自分は頭がいいから詐欺なんて関係ない」と思いこんでいるなら、そのような人も十分に危険だと思います。私はそう思っている人の「頭がいい」ことを疑っているからこんなことを言うのではありません。実際に誰もが認めるほど頭が良かったとしても詐欺被害に遭うリスクはあるのです。
話が変わるようですが新聞の三面記事を見ていると社会的地位が高く、間違いなく高学歴であろう人たちがとてもつまらない犯罪でしょっちゅう警察に逮捕されていることに驚かされます。しかも高い知的能力を活かした簡単には捕まらないような手の込んだタイプの犯罪ではありません。万引き・痴漢・暴力などなどのとても知能犯罪とは言えない、捕まるリスクの高い事件で加害者になってしまっています。
このことから私は高い知能を持っている人でも、多くはその知能を活かしているのは職場など限られた時と場所に過ぎず、それ以外の、たとえばプライベートな場面では大幅にその能力を低下させているのではないか、と考えています。特に欲望や願望、怒りや不安に捉われると、誰でも自分が愚かな行為に走りやすくなります。それは高い知能を評価されている人も例外ではないと思います。だから高知能な人たちも個人的な「欲望や願望、怒りや不安」に捉われやすいプライベートな場面で万引き・痴漢・暴力などの“頭の悪そうな”犯罪をやってしまうわけです。
当然ですが詐欺師たちは予告して知恵比べを相手に仕掛けるように騙すのではありません。まず様々な仕掛けで“カモ”(騙そうとしている相手)が抱いている欲望や願望、怒りや不安をあぶり出します。詐欺師はまずあぶりだされたそのような想いや感情を巧みに煽ることで“カモ”の知的能力を低下させます。そして“カモ”が催眠術にかかったような状態になったことを確認した後に騙しにかかるのです。だからその過程でかなり怪しいことが行われても、その場ではなかなか気づかずに被害に遭ってしまうわけです。後で思い返せばいくらでもおかしなところに自ら気づけても夢の中でそれが夢であることになかなか気づけないのと同様に。
詐欺師は騙された人より必ず知能が高いのでしょうか。私はそうは思いません。スポーツのように時と場所が指定されていて、そこに目がけて自分の能力を最高の状態持っていくような調整が各自可能な条件下で仮に詐欺師と詐欺被害者が騙し、騙されの知恵比べをすれば詐欺師が負けることも珍しくはないと思います。
ただ高い知能を持っていても詐欺被害者になってしまう人はある意味で自分自身の在り方について錯覚しやすい立場の人たちであることが多いようには思います。そのようなタイプの一つが社会的エリートに属する人たち、またはかつてエリートとして活躍していた人たちです。現在の社会では高学歴≒高知能であるということから出発して就職し、就職先で能力の高さが認められれば社会的地位が上昇し、そのキャリアに応じて高収入を得るというのがエリートの典型的な出世パターンとなっています。その過程は「自分は頭がよく、有能だ」という自己認識を強化していく過程でもあるわけです。
このような仕事の環境下においてエリートと目されている人は他のエリート候補たちと激しい競争下にあるとしても自ら他人を騙そうとすることはあまりないことが多いでしょう。なぜなら成功するエリートは人を騙さなければならないほど追い詰められることが少ないからです。また逆に陥れようと近づいてくる他人を回避する経験を積み重ねているわけでもない場合がほとんどです。エリートのほとんどは人から信頼されていることを前提にキャリアを築いていく人たちだからです。中には互いに騙し騙されるような過酷な環境で頭角を現す人もいるでしょうが少数派なはずです。つまりエリートといえどほとんどの場合、騙そうとしてくる他人を回避したり、防御したりする体験やそのための訓練や学習経験を積んでいるわけではありません。
それなのに「自分が他人から騙されないのは自分の頭が良くて誰も自分を騙せないからだ」と無自覚のうちに錯覚してしまうのです。単に騙そうとしてくる人に接しするような環境で生活していなかったために、そのような経験が少ないだけであるのに。
「自分は頭がいいから騙されない」という思い込みは、いつでも同じように高い知能を保持できるわけでもない自分の現実から目を背ける作用が起こる点で危険です。また自分の頭の良さに頼り過ぎて、騙されることへの備えもしないまま油断した生活を続けてしまうという意味でも危険なのです。