
弱くても、されどワン・ツー~最終話~マーチを一緒に
弱くても、されどワン・ツー~最終話~マーチを一緒に
和生人は布団を深くかぶった。もう誰も自分に関わってほしくなかった。
ドカドカと階段を上がる兄貴の足音がする。頼むから、お願いだから、もうやめてくれ。
扉の前で足音はピタリと止まった。和生人は必死に息を殺していた。
時計の秒針の音だけが、体を突き刺すように部屋に響く。
心臓が早鐘を打ち過ぎて痛い。呼吸がままならず、苦しい。
カッターは和生人の手の中にあり、そのまま布団に隠れる様に息を殺す。
(兄貴が来なかったら今頃俺は……。)
何分経っただろう。乱れた呼吸もようやく落ち着いてきた。兄貴はいるのか?やけに静かだけど……。
長い沈黙に耐えきれず、布団から顔を出し、しびれをきらした和生人が「帰って」と言おうとした
ーその瞬間ー
『お、にぃ、ちゃ……ッごぇんな、さい!』
兄貴の声じゃない。
はじめて聞く、声。これは、これは【大河の声】だ。
和生人は耳を疑った。大河が喋った!?物凄いスピードでドアを開けた。
するとそこには嬉しそうに笑いながら、下から手を伸ばす大河がいた。変わらないその姿(態度)に、和生人が思わず反射的に一歩、体を引いた。
また傷付けるのが怖かった。
すると大河は拒絶されたと思ったのか、先ほどよりもずっと、ずっと大きい声で、

ー刹那ー
和生人は泣きながら大河の体を抱きしめた。
和生人「ごめん!ごめんな、大河!!」
沢山練習しただろう、有難う。上手に言えてたよ。
(ちゃんと聞こえたよ、綺麗な声だ)
有難う。謝らなきゃいけないのは全部、俺の方なのに。
(本当は早く謝りたくて、会いにいけなくてごめん……。
ずっと会いたかった)
抱きしめた体から、温かな鼓動が聞こえる。
あぁ、俺はこの子を守りたいし、側にいたい。
両親が俺にそうしてくれたように、この子を陰で支えていきたい。
もう二度と傷付けない。
必ず誓うよ、神様。だから……。
和生人は顔をゆっくり放して、大河を見る。
大河は和生人の頬の傷にそっと触れる。
「大河、また君の髪を…切らせてくれませんか?」
和生人が恐る恐る聞くと、大河は嬉しそうに笑いながら
『あい!』と返事をし、大きく何度も頷いた。
兄貴は泣いてて、俺も泣いてた。
大河、もし君がこの先躓くことがあれば、一緒に立ち止まり歩き出す力を。
もし君が悩むことがあれば、一緒に悩み、答えを探そう。
もし君が泣くことがあれば、美味しいものを食べて忘れちゃおう。
(俺たちはきっと、とても似ているから……)大丈夫。
そうやってこれからも一緒に、成長していけたら 嬉しいんだ。
寒い部屋で凍えてた俺の心を溶かしてくれる、
いつだって 君の笑顔は 優しい陽だまり。
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最後に、
兄貴、沙月さん、大河、
父さん、母さん、
こんな俺をいつも信じて支えてくれて、
心から 有難う。
(了)