
【続編】弱くてもされどワン・ツー~第六話~責任の所在~
和生人「出勤が遅くなり申し訳ございませんでした!また昨日の青木様の件も本当に申し訳ございません!」
和生人は震える拳を握りしめ、力いっぱい大きな声で謝り、関根と須藤に頭を下げた。
その姿を関根と須藤は黙って見守る。二人は今日、和生人は来ないと思っていた。しかし雅人が大河を連れて現れ「和生人が来るまで邪魔するぜ~」と来ることを前提に話していたので、電話を控えていた。
そのまま二人は和生人の様子を見守る。厳しい視線とピリつく空気に、冬だというのに汗がポタポタと足元に落ちる。その様子を雅人も黙って見守る。
関根が軽い溜息で張り詰めた空気を壊した。
関根「それで、泉君!君の謝罪の気持ちは受け取ったよ。でももう一方、一番謝罪すべき人がいるよね?」
関根の言葉にようやく和生人は頭を上げる。急に頭を上げたせいで血が一気に下がり気持ちが悪い。しかし今は自分のことなんてどうでもよかった。
和生人「はい!可能でしたら青木様の電話番号を教えて頂き、謝罪をしたく思います。電話で気持ちが伝わらなければ、青木様が仰る所まで、会いに行きます!」
その鬼気迫る様子を見ていて、(ΦωΦ)フフフ…と須藤が口を開く。
須藤「若いね~泉君。その心がけは大事だと思う。だけど先輩から一つ忠告させてもらうとしたら、一つのクレームが入る度にお店外まで行くの?そこはね、相手になんとしてでも来てもらおうね、施術代は無料にして。お店に来てもらうの、ね、店長♪」
そう言って須藤が関根を見やる。関根はボリボリ頭を搔きながら言う。
関根「その通り!今回は泉君が矢面のクレームだが、客観的に言えばお店や私自身の責任であるわけだよ。泉君がクレームをもらう=指導ミスの私の責任、ってね」
和生人「そんな!店長は何も悪くないのに!」
和生人は自分の受けたクレームがお店全体の信憑性に大きく関わる事を今日初めて知った。
関根「だからね、泉君。青木様にはまず店の長として私がお電話をして謝ります。そして今度はお店にもう一度来てもらえるか、その際には担当したスタッフが謝罪させて頂きます、と伝えます。今の段階で泉君が青木様に電話をするとどーなるか。さぁ、想像してみて?」
和生人はてっきり自分が謝れば丸く収まると思っていたが、社会やお店はもっと大きな規模で運営されているみたいだ。和生人なりに必死に考える。
和生人「今、自分が青木様に謝罪の電話をしても受け入れてもらえない可能性があると思います」
関根「そう、正解。それこそ火に油を注ぐようなものだからね。ただし、お店にご来店頂いた際には精一杯謝ってもらうから覚悟してね」
和生人「はい!」
よろしい、と言って関根はようやく笑顔になった。和生人に店前の掃き掃除をお願いして、雅人を見る。
「あ、り、が、と、う」と口パクで雅人は関根に頭を下げた。するとそれをみていた大河が、いつもの言葉練習と勘違いして「あ、いがとー!!」と大声で言った。皆笑い出し、ようやくお店に活気が戻った。
実は関根はもう既に、青木に昨日の時点で謝罪の電話をかけていた。一応電話では今日の夜、仕事後に立ち寄ってくれるらしい。かなり渋々といった所だが、当たり前か。
あとは青木の再訪を全員で待つばかりだった。