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『emergence』宇賀神拓也 写真展 展評 2024年10月31日(木)~11月5日(火)

宇賀神さんの写真展「JOMON SPIRAL」を見に松本市中町のギャラリーに出かけたのは、2022年のゴールデンウィークでした。新聞の告知に目が留まり、同じ村に住む写真家が朝日村の縄文土器を撮影した写真展ということに心ひかれ、出掛けることにしました。在廊していた写真家は、ひげ面で人懐こく気さくに対応してくれ、「知識はないけれど朝日村の縄文文化に興味があり、発掘現場にも行った」と話をすると、しばし情熱的な話を聞くことができました。この時の写真展は縄文土器をクローズアップしたもので、特に「縄文の螺旋」と呼んでいる抽象的な造形が強烈なインパクトで心に残りました。何回も目にしていた地元の土器をこんなにもじっと見る機会がなく、縄文人の視点を考える貴重な機会になりました。

この展示に出会ったことが、私と縄文土器を結びつけていく糸口となったことは不思議です。というのも2022年の秋に朝日美術館の学芸員さんから、「朝日村の縄文人はどの土で土器を焼いたと思いますか?」と問い合わせがあり、それまで考えていたことをお話しする中で、2023年10月の彫刻家、濱田卓二展へとつながっていきます。

今回の『emergence』写真展は、さらに朝日村に根差した縄文人の生活を、発掘現場を通して感じさせてくれるもので、土に埋もれたままの遺跡、遺物が、数千年ぶりに地上に現れることの生々しい感動が映し出されていました。記録写真ではなく、土の中に縄文と現代をつなぐ時間軸を見せられた気がします

800 x 1000mmのアナログプリント


会期中に行われたギャラリートークは、写真家の宇賀神拓也さんと彫刻家の濱田卓二さんの対談で、異分野の芸術家同士のバトルのようなお話で聞き応えがありました。その中から印象に残った宇賀神さんのお話です。

「写真(の被写体)は全部借り物、作っているようで作っていない。でもシャッター押したの僕だし…。」

「発掘現場では粉々に砕け散った破片なんです。発掘作業員の普通のおじさんたちは、無意識のうちに土器の破片を含んだ彫刻作品を僕に作ってくれているんだ。僕はそれを写真にする。」

「考古学の発掘ってもののすごい衝撃がどこから来るのかを、自分なりに現場で発見して、それを写真を通して見る人たちが追体験できるように作った。」

ああ、そんな風にして写真を作品にしているんだなあ、と感じることができました。

より深く縄文を知りたいという思いを掻き立ててくれる展示でした。

(下田 力 / 地質コンサルタント)


縄文の螺旋に魅せられて「宇賀神拓也写真展 JOMON – SPIRAL」(新まつもと物語)
https://x.gd/7yNJm

土たちの詩話 - 濱田卓二|HAMADA TAKUJI
https://hamadatakuji.art/3d-flip-book/%E5%9C%9F%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AE%E8%A9%A9%E8%A9%B1/


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