踏み出せない一歩
アルツハイマーの母は、自分がその状態であることを知らない。
告知するメリットは、自らその状況を打開しようとしたり、将来の為にできることを考えられたりすることだろうが、うちの母の場合、そうではないことが想像される。
時々、母は「母親マウント」を取る。「私が世話されてるんじゃなくて、世話してやってる」スタンスである。そのポジショントークが、母の意識や活動の拠り所なのだから仕方ないと諦めている。
やっと辿り着いた介護訪問4回目も、そろそろぶり返しの反発が来そうだ。
こんなお世話要らない
血圧くらい自分で測る
こんなものにお金払うことない
私のこと頭が変な人みたいな話し方してくる
必死の防衛である。
この防衛力は、母が高度経済成長期を生き抜き、女手一つで子育てをした強さの表れだろう。母は気高く、たくましい。
防衛力とサバイバル、そして1970年代オイルショックの経験から、収集癖が発動する。
集めてくる物とその理由
これらは認知症患者が溜め込む典型的な物だ。生活必需品だから、余剰だと言って捨てるのは御法度になる。
砂糖は保存食、割り箸とおしぼりもライフライン、トイレットペーパーについては恐らく尿もれ不安も重なってのことだろう。
慣れてきたもので、私も想像力が豊かになってきた。他にも食べ残しがビニール袋に詰め込まれていたりもする。流石に不衛生な物はコッソリと捨てるが、後はそのままにすることにした。
ちなみに、消臭剤は効果のある製品を見つけて購入することで、少しだけこちらの心理的不安が軽減された。
踏み出せない一歩を、母と共にどう楽にするかを考えている。