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バスタイムと探偵

横浜市郊外、深夜1時。
住宅街の静寂が古びた白い軽バンのエンジン音を微かに震わせる。車内には張り込み開始から既に3時間が経過した二人の探偵。吐く息は白く、夜の闇に溶け出す寸前だ。
まるで古ぼけた映画のワンシーンのように、男たちの視線は闇の中に浮かぶ一軒の家へと鋭く注がれていた。

探偵A:「なあ、暇だな。めちゃくちゃ暇だ。なんか話そうぜ」大きく伸びをしながらため息をついた。

後部座席で腕を組んでいる探偵Bは無言でタバコに火をつける。暗闇の中火が小さく灯り、すぐに煙がゆっくりと広がった。

探偵B:「何の話?」

探偵A:「風呂かシャワーかどっち派?」

探偵B:「は?」わずかに眉をひそめ、煙を吐き出した。

探偵A:「探偵の仕事って長時間になる事が多くて疲れるだろ?家に帰ったとき湯船にどぼんと浸かるか、それともシャワーでさっと済ませるか。どっちがいいかって話だよ」

探偵B:「そんな事どうでもいいじゃん」

探偵A:「いいから付き合えって。俺は風呂派だな。湯船に浸かると、ああ、今日も生き延びたなって感じがするだろ?」

探偵B:「俺はシャワー派だ」

探偵A:「お前らしいな。理由は?」

探偵B:「短時間で済む。無駄な時間は削るに限る」

探偵A:「そんなんだから冷たいって言われるんだよ」

探偵B:「合理的なだけだ」

探偵A:「でもよ、湯船に入ると疲れが取れるって言うし、リラックスできるぞ」

探偵B:「シャワーでも十分だ。むしろお前は風呂で長湯しすぎてのぼせるタイプだろ」

探偵A:「ぐっ……まあ、否定はしない」

探偵B:「それに、浴槽を掃除するのが面倒だ」

探偵A:「そんなもん、ちゃちゃっとやればいいだろ」

探偵B:「それも時間の無駄だ」

探偵A:「お前、ほんと効率ばっか考えてるな。もうちょっと人生楽しめよ」

探偵B:「楽しんでるさ」

探偵A:「どこがだよ」

探偵B:「お前とこうしてくだらない話をしている時間も、それなりに楽しんでる」

探偵A:「……え?」


しばらく沈黙した後、じわじわと笑いがこみ上げてきた。
探偵A:「なんだよそれ。今のセリフ、なんかちょっとカッコよかったぞ」

探偵B:「そうか?」

探偵A:「お前がそんなこと言うとは思わなかったな。びっくりした」

探偵B:「お前のくだらない話に付き合わされてると多少は感化されるしな」

探偵A:「はははっ、そりゃよかった!」上機嫌で笑っている。


探偵B:「それで、結局どっちがいいんだ?」煙をゆっくり吐き出して言った。

探偵A:「え?いや、だから俺は風呂派だって」

探偵B:「そうか。じゃあ次の張り込みはお前が長風呂してる間に一人でやる」

探偵A:「待て待て待て! そういう話じゃねえだろ!」

探偵Aの抗議を無視しながら、探偵Bは煙草を消した。


こうして、張り込みの夜は静かに更けていった——。



終わり


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