紙の本か電子本か
ミール・ロシア語研究所は当時入門科・予科・本科・・・とあったのですが、
入門科は半期6ヶ月で週2回『標準ロシア語入門』(白水社)をやっていました。
それで予科の教科書はモスクワで発行されている教科書を使っていたのですが、それはソビエト時代からある名著なので、改訂前の古い版だと電子版でも入手できるんですね。最新版は今のところ紙版しかないようなのですが。
予科に進むにあたって、少し古い版であっても電子版を使うか、最新版の紙版か、どっちを使いたいか生徒さんに先日アンケートをとりました。ちなみに紙の教科書は日本で入手するとしっかりした値段です。
モスクワやサンクトペテルブルグの大型書店で入手できる場合もあるのですが、旅行で行った場合にピンポイントで探すのは結構大変です。
アンケート結果としては、初学者〜学習3年目くらいの方は紙の本を、大学時代にロシア語を学習されていた方は電子版を希望されました。
前後して私のツイッターでも不特定の方に外国語の教科書は紙か電子かどちらがいいかアンケートをとったところ、僅差で紙という結果になりました。
ロシア語に関わって10年も経つと、ロシア語の教科書が紙であっても電子であってもそんなに萌えポイントではないのですが。むしろ通勤時間中にスマホやタブレットでみて勉強できるなら電子のほうが便利だし、教科書はA4なので電車でひらくのもたいへんです。職場の人に巨大なロシア語の教科書みられたら面倒ですよね。わかります。私もOLだったとき、無垢な先輩に言われました、「会社員なのにロシア語なんかやってどうするの?」って。
私はミールでロシア語を勉強したのがロシア語の世界への唯一の窓口でした。
だから始めたばかりの方、始めて数年の方、自習でロシア語を勉強して、誰かにロシア語を習うのが私のところがほぼはじめての方が、モスクワ直輸入の教科書、全部ロシア語で書かれていて、ソビエト時代っぽい鉛筆デッサンのような挿絵。日本のとは微妙に違う大きさ、装丁。紙質。そういうのに萌えつつ、通勤時にかばんにいれて、昼休みに誰にもみられないところに行って授業の予習をする。紙だったらどこまで勉強したかわかりやすいし、色々書き込めるし。ボロボロになるまで暗唱の練習をする。そういうのに憧れつつそういう生活をしたいというのはとてもよくわかりますし、私もそうしてきました。そうやって勉強した形のある教科書はずっと宝物です。
入門科のテキスト『標準ロシア語入門』では主に短文ばかり練習するので、予科に進む際にロシア語だけで書かれたテキストの突然のボリュームになるとついていけなくて、いろんな方法を試行錯誤して、授業についていこうとしました。
長文の音源をとにかく聞きまくる。長文をノートに書き写してみる。コピーをとって色々と書きこんでみる。どれが一番ロシア語ができるようになるという確実な方法はなくて、でも試行錯誤しながらどれが自分にとって一番むいているか確かめていくなかで気がついたらロシア語が読めるようになってきた、少し聞き取れるようになってきた。そういうふうになるのに一番苦しいのが、ちょっとまとまった文章を読む頃だと思います。そういうときに紙の本も、自分でそれをスキャンして電子も両方選べるのは便利で、電子だけだとちょっと勉強しづらいのもわかります。
個人的には私自身が東先生に習っていた版(PDF)を使えるのは一番予習がしやすいというのはあるのですが、とはいえ他人に習うのがはじめての子もいます。そういうわけなので今回は多数決で決めて、結果的に初学者または学習年数の少ない方がみなおっしゃった「紙」を採ることにしました。
まだ次の教科書に着手するまでに何ヶ月かあるのですが、関東の生徒さんで紙の本を買いたいという方は早速買いにいってくださるそうです。(この純粋さも私自身が学習1〜3年頃のことを思い起こさせます。かわいいですね。)
それで紙版の教科書を採用するということにしたのですが、学習年数の長いかたは特に、すぐに買ってくださるのも大変ありがたいですが、逆に今すぐ買わなくても構わないと思っています。(もちろん名著を絶版にしないという意味で買ってもらったほうがいいです、立場上) たとえば既習者の方であれば音を全部聞いて全部自分でテキストを書き起こしたり、私がプリントで差し上げたものを全部自分でWordやノートに書きおこしたりするのもものすごく勉強になるからです。そうしてある意味無茶苦茶というか、試行錯誤もしつつ。絶対に買え、というつもりはなくて、私としてはご案内した教材をなんらかのかたちで使い倒して私も生徒さんも必死で勉強できるかたちであればなんでもいいです。
それでもやっぱり気になるときは、たとえば旅行でモスクワに行ったときに、サンクトペテルブルグに行ったときに探してみたり。あるいはオゾン(インターネット購買サイト)で取り扱いがないか、空輸してもらえるか調べてみたり。モスクワで1,000部しか出ていないので、ひょっとしたらその版は入手しないで終わることになるかもしれません。私はこの教科書の凄さがわかるまでに7、8年ほどかかりました。仮に近々は入手せずとも、あるいは今回はこの教科書の面白さがまだよくわからなかったとしても、とりあえず必死で使い倒してもらって、何年かあとに違う勉強をしている時にこの教科書がなぜソビエト時代からずっとあるのかが突然理解できたりするようになってそのときにまた、この教科書と出会えばいいのかな、と思うわけです。
写真はウズベキスタン・ブハラのカラーンミナレット(2013年8月筆者撮影)