#111 伏兵が轟く瞬間こそ美しい
UEFAチャンピオンズリーグを観る為にWOWOWと契約したんですよ。
そしたら夜中、過去のEUROの全ゴール集&ハイライト集なんてのが放送されていて。
それがまぁ、タチの悪い番組でしてね。2016年が終わったらすぐに2012年やって、それが終わったら2008年、そして2004年……テレビ切れない!切るタイミングがない!
同時にこんな妄想もしたんですよ。
WOWOWでは解説者や著名人が選ぶEURO名勝負選を放送してくれる番組もありますけど、もし仮に自分が有名人だったとして、この番組に出してもらえたとして、どの試合をチョイスするだろうか…と。果たしてどの瞬間が自分にとって忘れられない試合だったのか…と。
EURO2016のイタリアvsドイツ、EURO2012のグループステージの方のスペインvsイタリア……思い出深い試合は多いんですけど、一つ選べっていうなら……EURO2008の準々決勝、オランダvsロシアの試合ですよ。
EUROとか、或いはワールドカップとか。そういう大会の一番美しい瞬間って、伏兵が轟く瞬間だと思ってるんですよね。当時小学5年生だった私がね、一人の選手を大好きにもなった瞬間でした。
この時尋常じゃなくオランダが強かったんですよ。
2年前のW杯で決勝を戦ったイタリアとフランスと同じグループにぶち込まれながら、イタリアに3-0、フランスに4-1とお手本のような粉砕劇。伝説的ストライカーのファン・バステンが指揮を執るチームにはファン・ニステル・ローイが最前線にいて、攻撃陣にはカイトやファン・デル・ファールト、そして大好きなスナイデルが君臨していて…ロッベンやファン・ペルシーがベンチという鬼のような豪華布陣。サッカー自体も実にスペクタクルで、攻められたとしても「こいつから点取れんの?」ってレベルに全部止めちゃうGKファン・デル・サール…。
EUROに関しては特に応援するチームを特定して観ているわけじゃないんですけど、この時ばかりはオランダ代表に夢中でした。初戦のイタリア戦のインパクトはそれだけ大きかったんです。
…で、ベスト8ですよ。この段階で本命扱いされてたのって確かスペインとオランダの2つだったんじゃないですかね。ドイツはちょっと低空飛行な始まり方だったので。
一方のロシアといえば監督がオランダ人のヒディンクだったんですよ。元オランダ代表監督かつ、韓国代表やオーストラリア代表でもW杯で好成績を残して、いわば「ジャイキリを起こす監督」の筆頭格みたいなイメージだったんですね。しかもそもそもヒディンクなオランダ人な訳ですよ。元オランダ代表監督な訳ですよ。この時点で胸躍るシチュエーションじゃないですか。
とは言っても、いくらヒディンクとて今のロシアが今のオランダには勝てないだろう…ってさすがに思ってました。いくらなんでも…ね。
そしたらいざ始まったら一進一退、もう激しくスリリングな互角の攻防戦がピッチ上で繰り広げられて。先制点を取ったのもロシアだったんですよ。そのロシアの中心にいた…大柄ロシア軍団の中に一人ひょろっといた10番、それがアンドレイ・アルシャビンでした。
この時のロシアはパブリュチェンコとかジルコフとかアキンフェウフとか他にも優秀かつ名前の言いにくい選手がすごく多かったんですよ。その中であれだけ強かったオランダ代表の守備陣をズタズタにしていくアルシャビンの姿……完全にオランダ目当てで見ていた自分の視線は完全にアルシャビンに注がれてました。
試合は終了間際にオランダが同点が追い付くんですけど、オランダが追いついた喜び、ロシアが追いつかれた悲しみよりも「この試合をあと30分観られる事の嬉しさ」を感じていた事を今でも覚えています。
そして延長戦はそれこそアルシャビンの独壇場。ロシアの決勝点をアシストし、そして最後には自分でトドメの3点目…。あの日、あの時、あの瞬間……あの男は紛れもなくフットボールの主役でした。
準決勝ではスペインに0-3で敗れてロシアはベスト4という結果になりました。確かにこの大会のスペインはこの後の結果が示すようにまさしく黄金時代であり、それもあってEURO2008は若干「スペインの為の大会」と思われている節もあります。実際スペインは大好きですが、EURO2008に限れば……私の中での主役はアルシャビンだったと今でも思っています。
あれから10年後の2018年、ロシアで行われるワールドカップを観に、私はサンクトペテルブルク……アルシャビンが輝いた地、サンクトペテルブルクに赴きました。
あの日から一年後、アルシャビンが輝いたサンクトペテルブルクの地で観たロシアワールドカップ、ロシア代表の躍動は今思えばあの日から続く何かの縁だったようにも思ったり、思わなかったり。
あの試合、誰もがオランダが勝つと思っていました。ロシアでは期待の10番だったけれど、世界的に見ればロシア、そしてアルシャビンは伏兵。そしてこのような世界大会は伏兵が世界に轟くその瞬間こそ美しいんです。
今年は延期されていたEURO2021や東京五輪が行われる予定になっています。伏兵がスーパースターになるその瞬間……衝撃を受けるほどの選手との出会いを心待ちにしています。