花 安藤
私の心の友は、美しい人だ。
細い細いお月さまのように繊細で
藤の花のように力強い。
静かな凪の中で
彼女は花を生けている。
6月9日。
私の母の誕生日。
長年勤めていたお仕事を辞めて、
新しい門出を祝う特別な誕生日に
私は彼女にお花を依頼した。
私は母が昔から変わらず大好きな
真紅の薔薇をお願いした。
真紅の薔薇は母にとって特別な花で、
過去世の中の何かとても幸せな思い出が蘇るのかもしれない。
美女と野獣の一輪の薔薇のように
情熱を秘めて輝く美しい薔薇が母の中に見える。
これまで人のためにばかり生きてきた母。
これからは自分の好きなことをして生きていく人生。
あなたが主役。
これまでありがとう。
解き放たれて、新しい門出おめでとう。
彼女に聞かれるまま
母への想いを伝えた。
彼女は花と向き合うとき、
何かに導かれるように
自然と地球と宇宙と繋がる。
そうして集められた花は
私と母の大切な想いを束ねた花束となった。
《彼女からのお手紙》
ガーネットジェムをメインに、仕立てさせてもらいました。
仕入れ前にふと、お母さんの言葉を思い出したの。
前回一緒に山へ行ったときのこと。
「紫って、ほんと好きなのよね」
それで思ったの。
お母さんの過去生の一番が真紅のバラだったなら、
今は(ここからかな)紫なのかなって。
それで、ライラッククラシックを。
組んでて気づいたの。
あ、赤に、有里=青を足したら、紫になるんだ..って。
有里の想いを心になぞって、花束を組んで、
今、もしくはここからが、
過去も踏まえて一番幸せになっていくことを、願って。
私が最近、青に惹かれている事、
お母さんがふと話した「紫が好き」ということを覚えてくれていた。
ー使用花材ー
バラ ”ガーネットジェム”
バラ ”ライラッククラシック”
カーネーション ”レージェ”
スグリの実
アジサイ
エレンダニカ
ゼノビア
ロシアンオリーブ
銀用アカシア
上記レシピには入れない、グリーンのつぼみ、
なんの花かわかったかな。
あの蕾はゆりだよ。
そして色形様々な葉は、弟。
お母さん、とりわけ子どもを想って、
長年働いてきたお母さんを祝福するには
家族全員必要
全体の雰囲気でお父さん、
それに抱かれるお母さんの薔薇、
過去とここから、
すべてが美しく溶け合い、ひとつになり、
結実の予祝、スグリです。
スグリについては奇跡のようなことがあった。
母がかわいがって親しくしていた子が、
亡くなる前に母にスグリの実の話をして、
母は彼女からもらったスグリの実を庭に植え、
その実がなるたびに彼女を思い出していたそう。
花束の中にスグリの実を見つけた母はすぐに、
あの子が天国からおめでとうを言いにきてくれたんだわ
と思い、とても喜んでいた。
彼女のその凪の泉から落とした花の一滴は
香しい波紋となって私たち家族を満たしてくれた。
私たちの想いを丁寧に、
お花を掬うようにやさしく受け止め、
大切に扱い花束にしてくれたその想いに
嬉しくて、涙が出た。
彼女の心根の純粋さと、彼女の生き様、
すべてがこの花束に溢れている。
純粋な想いが放った波はどんな距離も時空も超えて、響く。
そのことに私は、
心が震え、勇気づけられた。
彼女のお花やさんの名前は、
花 安藤
今年、金沢でお店を持つそうです。
*ここに載せている写真は全て彼女が撮ったものです。