淡い記憶がよみがえる。雲みたいなふわふわのカスタードケーキ。
「ユカたん」
女の子のニックネームみたいな洋菓子が北海道にある。
子どもの頃、遊びにきた親戚が、手土産としてユカたんを持ってきたのをよく覚えている。
青空にうかぶ雲みたいにふわふわで、まあるいカスタードケーキ。私も家族も、このお菓子が大好きだった。
外はふわふわのシフォン生地。中はとろとろのカスタードクリームが入っている。かぶりつくと中身がこぼれてしまうから、そおーっと2つにわってから慎重に食べるのが、我が家の習わしだった。
ユカたんを食べているときは、家族みんなが無言になる。クリームがこぼれないように集中しているのもあったが、各々おいしさの余韻に浸っていたんだと思う。
「美味しいものを食べる時、人って無言になるんだなぁ」と、このとき子供ながら感じた記憶がある。
しかし、いつしかユカたんの姿を見かけなくり、私の記憶からもユカたんの思い出が、しだいに消えて無くなっていった。
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先日、クラファンのサイトを覗いていた時、とある洋菓子店が支援を募集していた。紹介画像の中で従業員の方が手にしているものに、私の目はくぎ付けになった。
どこか見覚えあるなぁ、このパッケージ…。
「あっ、ユカたんだ!!」
当時のなつかしさが、一気にこみ上げてきた。市内ではまったく見かけないけど、今はどこで手に入るんだろう。クラファンの情報をもとに調べてみると、ユカたんのネーミングの由来や歴史について知ることができた。
ユカたんを製造しているニシムラファミリーは、2018年に経営破綻。しかし、別企業が事業を譲り受け、販売を再開し今に至っている。
ニシムラファミリーの歴史は古く、1929年にまでさかのぼる。前身の「西村食品工業」創業者・西村久蔵氏は「すべての札幌の子供達にシュークリームを」という理念のもと、試行錯誤のうえ価格を抑えたシュークリームを販売し、市民から多くの支持を得たそうだ。
ちなみに、西村氏は三浦綾子氏の小説『愛の鬼才 西村久蔵の歩んだ道』にでてくる人物である。
洋菓子店として長く北海道民に愛され、ユカたんやレモンケーキなどのヒット商品を数々生み出した。ユカたんという名称は、昔働いていた従業員のニックネームだったようだ。ネーミングの由来が、従業員のニックネームとは相当面白い。遊び心があるんだろうな。
現在は北海道千歳市に店舗を構え、北海道産の厳選された食材にこだわった商品作りをしている。自社サイトをみると、力の入れ具合がよくわかる。
クラファン上の返礼品として、ユカたんの定番カスタード以外にも、限定の『富良野メロンカスタード』や『キャラメルスイート』も用意されている。どちらも美味しそう~~~~~。
さっそく、ユカたんを購入した。
ふわふわのシフォン生地をひと口かじると、中からトロっとこぼれる優しいあまさのカスタードクリーム。つやつやのたまご色に、しばしうっとりする。
味はまったく変わっていなかった。家族みんなで、そおーっと2つにわって無言で食べたあの時と同じまま。なんだか懐かしくって、食べながらにやけてしまった。また、ユカたん買いに行こう。