【不思議な夢】闇の支配者
過去に何度も夢に出てきた謎多き男剣士にまつわる不思議な夢の話。
過去の内容は以下に。
気付いた時には夢の世界に居たのだが、いきなりの展開に戸惑っていた。
魔王軍と戦う部隊に所属していた私にはある重大な任務が言い渡されたのだが、その内容があまりにも衝撃的だった。
上官「入手した情報によると、魔王が病魔に侵されて虫の息らしい」
私「じゃあ、いづれは病死する可能性があるのですか?」
上官「ただ、持ち直されると厄介だ、様子が知りたい」
私「情報収集ですね」
上官「魔王軍に紛れ込んで調査して欲しいのだが」
私「どのように?」
上官「姿を妖怪に変えて闇の世界に潜入してくれ」
私「部下のふりをして近づけばいいんですか?」
上官「しばらく様子を見て、頃合いを見計らって撤退して報告をしてくれ」
私「了解しました、バレないように妖怪に化けてみます」
ぽわんと煙のようなものに包まれて、シュワシュワっと泡のようなものが体に溶け込んでいくこの感覚は、炭酸飲料が喉を刺激するようなあの独特の感じに近いかもしれない。
徐々に頭の中が空っぽになっていく。
ああ、私は今から妖怪になるんだ、魔王軍と戦う立場だというのに、こんな変化の術なんか使っていいのだろうか。
でも任務だから仕方ないか。
今の心境はとても複雑である。
煙が消え失せると同時に私は緑色の妖怪に姿を変えていたのだが、鏡で確認してみると、なんと河童になっているではないか!
少しぽっちゃりした抜けた感じの憎めない小僧のような、妖怪にしてはどこか人間臭い感じがする。
本当にこんな姿で魔王なんて騙せるのだろうか?
上官の行け!という声と同時に私はどこかの建物の中に転送されていた。
ここは・・・闇の世界なのか?
それにしても、ぼんやりした光が存在するこの世界が闇だとは思えない。
私が想像していた闇の世界はもっと暗いものだが、ここは曇り空くらいの明るさがある。
建物には窓がなく、外の様子を知ることが出来ない。
任務に失敗したら逃げられるんだろうか、そういう不安もあったが、なるようにしかならない。
先に進むか・・・。
目の前のドアをゆっくり開ける。
古い和室の中に布団が敷かれている。
誰かが眠っているようだが・・・。
ま、まさかこんなところに魔王が寝ているなんてことはないだろう。
そう思っていたのだが、ガバっとめくられた布団からは見覚えのある男性が姿を現した。
過去に何度も夢の中で行動を共にしてきたあの謎多き男剣士ではないか!
ただ、あの時のような覇気は一切感じられず、かなり弱々しい姿だった。
顔色も悪く、今にも倒れそうだ。
病気というのは本当なのかもしれない。
やつれた彼の姿を見て「もう戦えるような力は残されていない」と理解した。
彼の表情は虚ろで髪はぼさぼさ、寝間着もヨレヨレの状態でとても魔王とは思えない姿だ。
魔王「お前は・・・あの時の剣士か?」
私「え!?あ!?わ わたしはあのその・・・」
正体がバレバレだ。
これ以上隠しても無駄だろう。
正直に話すしかない。
私「様子を伺うために妖怪に化けたんですが、やはりバレましたね・・・」
魔王「そのような姿になったところで、この俺を騙せるわけないだろう」
私「病気は本当だったんですね」
魔王「うむ、見てのとおりだ、このままだといづれは・・・」
私「何故病気になったんです?」
魔王「・・・・・・・・・・・」
魔王はだんまりだった。
病気になってしまった理由を語りたくないのだろうか?
そして、闇の世界に戻ってしまった彼はいつから魔王の座に就いていたのか。
それとも、元々魔王ではあったが、素性を隠して剣士として人間界に居たのだろうか。
色々な疑問が頭の中に湧いてくるが、それを彼にぶつけていいのか迷ってしまった。
弱々しい彼を見て「今ならやれる!」とか「人間界に戻って報告だ!」という思いよりは「何だか可哀想」とか「どうしてこんなことに」という感情の方が先に湧いてしまった。
魔王の口が開く。
魔王「このまま見逃してくれないか?」
私「え?」
魔王「もし、魔王討伐部隊に知られたら間違いなくやられるだろう」
私「・・・・・・・・・・」
魔王「だが、このままどこかに姿を隠して休眠し続ければ、いづれは力は回復するだろう」
私(だけど、そんなことをしたら、私は裏切者になる)
魔王「そんな顔をするな、もし逃げる手助けをしてくれたならば、今後は全力でお前を守ろう」
私「あぁ、私に裏切れというのか・・・」
魔王「そうなるな、お前は人間達にとっては裏切者になるだろうな」
私(人間界で一緒に行動していた時は、彼に惹かれるものを感じていた)
私(でもそれは、彼が同じ人間だと思っていたから)
私(彼の本当の姿は魔王だった、私達人間の敵なんだ)
私(どうすればいいのか、彼には生きていて欲しいけど、魔王軍のトップだから・・・)
魔王「さあ、答えを聞かせてくれ」
私「私は・・・」
本音では生きていて欲しい。
出来ればまた一緒に旅に出たい。
魔王とか人間とか立場や種族は関係なしに。
だけど、それは出来ない。
私は人間、彼は魔族。
敵対している以上は戦って打倒さなければならない。
悩みに悩んでいる私をじーっと彼は観察している。
仲間を呼ぶこともなければ、私に攻撃を加えてくることもない。
彼は本当に私を見逃してくれるのだろうか。
嘘をついているようには見えないが・・・。
答えは出ない。
決断が下せない。
時間だけが過ぎていく。
もうだめだ、私には選べない。
そう思った瞬間に目が覚めてしまった。
・・・久しぶりに見てしまった謎多き男剣士の夢だったが、まさかの展開に驚いてしまった。
魔王だったこと、病魔に侵されていたこと、あっさりと正体がバレてしまったこと、そして、見逃して欲しいと言われてしまったこと。
夢の中の私は彼に生きていて欲しいと思っており、彼もまた私とは戦う意思は持ち合わせていないようだった。
このまま2人でどこかに姿を晦ましてしまえば、いつまでも一緒に居られるかもしれない。
それはお互いにそうなりたいと思っていたかもしれない。
悲しい運命に翻弄されてしまった魔王と剣士の物語はどこまで続くのだろう。
次に夢の世界で会えた時には望むような世界で出会えることを祈るばかりだ。