見出し画像

【悪夢】黒い手の行方

謎の黒い手が私の頭をかすめていった悪夢の話。

初夏の寝苦しい夜中に奇妙な体験をしてしまった。
おそらくは悪夢を見ていたと思うが、妙に生々しい感触に恐怖心を覚えた。

正直なところ、これが悪夢なのか現実なのか判断がつかない。

時は遡ること数日前。
ネット上で嫌な出来事に遭遇してしまった私は精神的ショックから何も手がつかなくなってしまった。

ある人物の恨みがましい表情が私の頭から離れない。
輝きを失ってしまったであろう瞳が私をじーっと見つめている。
ただひたすら私に向けられている黒い視線に恐怖を覚えてしまった。

出来るだけ相手の視界に入らないように身を隠すことに決めた。
しばらくすれば私も相手もその出来事について忘れてしまうだろう、そんなことを考えていた。

その考えが甘いことに気付いたのは数日後だった。

ある日の夜、私は疲れが溜まっていたことで数日前の嫌な出来事を思い出していた。

考えても仕方がない、眠ってしまえばきっと忘れられるはずだ。
そう思った私は重い体を引きずってベッドの中に入っていった。
しばらくは重苦しい空気に包まれていた。

暑苦しい・・・このままじゃ眠れない。

ヒーリングの音楽を流すことにした。
心が穏やかになれるような涼し気な曲を選んだ。
自然の流れに身を任せて眠りにつきたい。

じわじわと迫って来る熱気に嫌な汗をかいてしまった。
あぁ、しばらくは眠ることは出来ないな。
ダメだ、考えるのはやめようと思っていたのに様々な思いが私の頭を支配していくではないか。

頭を動かさずに体を動かして気を紛らわせようか。

私は体を横に倒してみたり、枕の位置を変えてみたりと色々試してみたがどれもしっくりこない。
冷蔵庫から冷たいお茶を出してきて飲んでみるが、それでも体は落ち着かない。

うーん、このままだと安眠は出来なさそうである。
ため息をついたその時だった。

パソコンのモニターから何かの声が聞こえてきた。
若い女性が何か呟いているような感じだろうか?
パソコンから流れているのはヒーリングの音楽だけだが・・・?

何を言っていたのかは分からない。
ぶつぶつぶつ・・・と何か愚痴のようなものを垂れ流していたかもしれない。
これは、私への不満なのか?

声が聞こえた直後に寒気が走る!

私の頭に浮かんだのは真っ黒な手だった。
それほど大きくないが、子供のものでもない、成人女性くらいの大きさだった。
すーっと私の頭をかすめていった。

それはほんの一瞬の出来事だったが、充分すぎるほど私に恐怖を与えていった。

私の頭に触れた瞬間に嫌な感情が入ってきたからだ。
黒いどんよりとしたオーラを纏っていたそれは明らかに私への悪意があった。
ただ私の頭をかすめただけなのに、悪意ある黒い手に私は鳥肌が立ってしまった。

この恐ろしい感触は間違いない、きっと生霊の手に違いない!
目の前が真っ暗になる。

先程までは暑苦しくて眠れなかったのに、今は真逆で全身寒気と恐怖心で体が動かなくなってしまった。
冷や汗をかいてしまった。

怖い怖い怖い怖い!

何なんだこの黒い手は!?
なぜ私の前に出てきた!
頭に触れてきたのには何か意味があるのか!?

考えたくもなかった。
悪意のある手のことを。

嫌だ、どうして私のところへ出てきたの!
こんな怖い思いなんてしたくなかったのに!

誰か、誰か助けて!
また出てきたらどうしよう!
見たくない、触れて欲しくない!

私の心は酷く混乱していた。
もうどうしていいのか分からない。
得体の知れない手はもうどこにも居ないのに、それでも湧き出てくる恐怖心から逃れることが出来ないでいた。

いつもの私なら何かが出てきたら不動明王に助けを求めていたのだが、今回はそこまで行動出来なかった。
思いつかなかった、誰に救いを求めればいいのかを・・・。

黒い手の持ち主の思念を感じたような気がした。
心の中でニヤリとしていたようだ。
私が怖がっているのを面白がっているかのように。

一体何の目的でこんなことを?

もう何も考えたくなかった。
忘れよう、そうしなければ私は黒い手の思念に負けそうだ。

ふと、視界が一瞬揺らいだ。
何事もなかったかのように私は目が覚めたような気がした。

あれ?

さっきの体験は悪夢だったのか?

おかしいな、あれほどリアルな感触があったのに・・・。

今はそれほど怖くない。

きっとそうだ、悪夢だ。

悪夢に違いない!

私は自分に言い聞かせた。
謎の声と黒い手は悪夢の一部だったんだ。

しばらくしてから私は眠りにつくことが出来た。
気付いた時には朝を迎えていた。
よかった、あれから何も起きなくて・・・。

次の日の夜に私は母に昨夜何か感じるものがなかったか尋ねてみた。


私「お母さん、昨夜何もなかった?」

母「別に何もなかったけど、どうかしたか?」

私「実は・・・〇〇△△というようなことがあった」

母「それは夢か気のせいじゃないか?」

私「うん、たぶん変な夢だと思うんだけど・・・」

母「お前は神経質で気にしてばっかりだから変な夢を見ただけだ」

私(そうかもしれないんだけど、やけにリアルだった)


それからしばらくは黒い手にまつわる悪夢を見ることはなかったので安心していたが、10日ほど経った後にまたしても恐ろしい悪夢を見ることになるとはその時は思いもしなかった。