見出し画像

chapter.7


こんにちは。
なんとなく始めてしまった新しいモデルのプロトタイプに熱中し過ぎてお金がないじろうon the trailです。

こいつ、年中金ねぇじゃんって思いました?

ええ、ありませんよ。
あるわけねぇだろ。

ボクの貧乏自慢は置いておいて、今回はシェルターを実際の設計方法、パターンの製作方法について書いていこうと思います。

形式の選択

また行きたいコロラドトレイル

まずは自分が作りたいシェルターの形を決めましょう。

以前に設計の前段階で必要になることは書いたのでこちらから。

以前の記事では一般的な形式の特徴を考えながらメリット/デメリットや設計する際のボクの考え方を書きましたが、あくまで一例です。

みなさんはみなさんの考え方を持って設計しましょう。

とはいえ、どういう思考回路で設計を行うかが最初はわからないと思いますから、参考にしてみてください。

chapter.5で詳しく挙げた形式は
①ミッド
②Aフレーム
③ツインピーク
の3つですが最近流行りなのは、④Aミッド(zpacksのduplexやHMGのunbound、GGのThe oneなど)ですかね。

今回は1番簡単な①ミッドの設計について書いちゃおうかな!と思います。

設計図の書き方は基本的にどれも同じなので、ミッドが作れれば、まぁ他のものも作れる…かな…。
たぶん…。

大きさを決める

DAMSELFLYは頭や足がパネルから充分に離れて、かつ設営範囲がなるべく狭いように設計した

まずは大きさを決めます。

ミッドの内部空間の居住感覚はなかなか難しくて、設営範囲をコンパクトにしすぎると非常にストレスが大きくなってしまいます。

例えばzpacksのポケットタープなどはフロア面積が小さいですが、あれは地面からかなり離して設営することを想定しているためにまぁなんとか使えるような形になっているわけです。

ここではベタ張りを含めた耐候性を考えた設営範囲を設定します。

DAMSELFLYの立面図。
なんだかいろいろ書き込んでますが。

まずは立面図です。

高さと横幅をここで検討します。

ミッドのピーク高さは各メーカーともだいたい似たり寄ったりで、115㎝〜125㎝くらいですから、まずはここからスタートします。

DAMSELFLYは設計上はベタ張りの時のピークを120㎝に設定してあります。

次に幅ですが、ここで中の居住性がある程度設定できます。

ひとまず各メーカーの横幅はどれくらいかを見てみると、だいたい260㎝〜280㎝程度ですので、これも参考にしましょう。

DAMSELFLYは280㎝に設定してあります。

まずはボトムの横幅を方眼紙に書き込みます。

ちなみにボクは手描きなのでいつもこれを使います。

2年前くらいに初めてシェルター設計用に買ったやつ。
ボロボロ…

ボクの使ってるのは1㎜方眼なので、これを実際の大きさの1/10として描きます。

横幅280㎝の設計なら280㎜という感じです。

当たり前ですが、方眼紙は縦横の直角を測る必要がないし、方眼目を数えれば長さもパッと分かるので便利です。
当然、中心線を出したり各ポイントを出すときも役に立ちます。
まぁ、そういう道具ですからね。

さぁ、ボトムの長さ(ここでは280㎜)を描き込んだら高さも描き込みます(ここでは120㎜)。

この時に、中に人が入っていることを忘れないようにしましょう。

つまり人が横たわった時に、頭と足がパネルからどれくらい離れているか確認します。

中心をまたいで人が横たわった時のパネルからボトムまでの高さを確認。

ボクはエアマット(サーマレストのX-lite)を使うので最低限必要なパネルまでの距離は、マットの厚み+自分の足のサイズ+キルトの厚み、となります。

X-liteは厚みが65㎜程度、足のサイズは実測25.5㎝、キルトは60㎜程度ですから、最低でも65+255+60=380は必要です。

ところがカツカツだと厳冬期用のキルトは使えないし、そもそも寝返りも打てないので、+5〜10㎝程度の余裕があるほうが良いでしょう。

そこで、高さと幅をいじっていくことになります。

ピーク高さと幅を変えるとパネル高さが変わる。
各組み合わせを描き込んで検討。

DAMSELFLYではギリギリ居住性を保ったものを狙ったので、上の画像のように検討して幅280㎝、ピーク高さ120㎝に落ち着きました。

写真を見ても分かるように、ミッドは三角形の集まりなので幅を狭くすると当然居住空間を圧迫しますし、形状的にデッドスペースが多いので、260㎝幅×120㎝ピークくらいが実用に耐える大きさの限度です。
ただ260×120だと、エアマットを使うと少し難儀するかもしれません。
まぁ一泊くらいならいいかもですが、ロングハイキング用としてはおススメしません。

結露管理が面倒で結果としてキルトが濡れる確率上がっちゃうんでね。

まぁクローズドセルマットしか使わないなら問題は少ないかもしれません。

上の立面図だと、DAMSELFLYは足と頭が来る部分は45㎝以上になるので、連用してもストレスは少ないはずです。
ちなみに余裕を持って身長200㎝で頭と足の位置を設定しています。
こうすることで寝返りや内部での身体のズレに対して許容度が出ます。

正面の立面図が描けたら、次は平面図を描きます。

DAMSELFLYの六角形の平面。
設営範囲を小さくしつつ、中心の幅を広く取ることで居住空間を広げる。

この時も身体の幅や荷物の量などを考えつつ検討していきます。

通常ミッドは居住空間と前室を分けて考えます。

例えばtrampliteは平面上のピーク位置を前にずらしてポールより後ろを居住空間、前を前室として使うように設計されています。
彼はMLDのSolo midから発展させたことに言及していて、Solo midもまピーク位置を前にスライドさせた設計になっています。

Solo midは専有面積の70%を居住スペースとして使えるようになっているという触れ込みです。

しかしピーク位置をスライドさせると、バックパネルの傾斜が緩くなるので、座ったときに圧迫感を感じるようになります。

こういうことは横立面を描く時に考慮しますが、ここでも少し頭に置いておくと良いでしょう。

DAMSELFLYは前室という考え方を削って、基本的に2本のポールで設営することで専有範囲の全てを居住空間としました。

削り込んだミニマリストであれば、荷物は中心の幅が少し広くなったところに充分置けるはずです。

その代わり、テント内で〝オシャレな山ご飯〟を食べる余裕はありません。

悪天候の場合は行動食やトレイルフードの工夫で火器を使わないものを食べるようにすれば問題ないと考えているからです。

中で煮炊きしたい人は余裕のあるフットプリントに設定すると良いでしょう。

DAMSELFLYの場合、足側と頭側で90㎝の幅があれば充分という発想で設計しています。
中心では荷物を置くことを考えて120㎝としていますが、ここは110㎝、115㎝と実際に作って検討しました。

こうしたスキニーなフットプリントにすることで、フロント/バックパネルの傾斜が速くなるので、雪や雨を良く流して耐候性が上がります。
また、細長いので風の方向に対してサイドを向けて設営すれば風の影響も少なくなります。
ポールもAフレームに組むので風に対する抵抗力もかなり高いはずです。

ここまで描いたらもう出来上がったも同然ですが、最後に横立面図を描きます。

画像が斜めですいません

横立面図では座った時や荷物を置いた時の状態をイメージしましょう。

正面、平面、横と図面を描くと、立体の出来上がりがなんとなくイメージできるようになります。

この3つが揃ったら、自分が最初イメージしていたものとの調整をして、最終的な形に近づくように修正していきましょう。

自分でカッコいいと思えるように、納得するまで修正します。

ボクは描いたものを壁などに貼り付けて、少し離れた所から眺めたりします。
逆さまに貼っておくと、バランスの違和感に気がつきやすいかと思います。
この作業に数日から1週間程度時間を置くと、自分の図面がだいぶ客観的に見られるようになります。

ちなみに、ここまでの描線は全て直線で描きます。

最後に三角関数を使って各リッジラインの(出来上がりでの)長さを計算してメモを書き込みます。

これはDRAGON FLYの実長をメモ書きした図面

パターンを作るにしろ、生地を直接裁断するにしろ実長が必要になりますので、ここは必ずやりましょう。

立体のものを作るので、立面図や平面図から計算します。

例えばDAMSELFLYのサイドリッジラインの実長を求めるやり方は、まず平面図でリッジライン直下の地の間を求めます。
これは直角三角形の底辺に相当する部分です。

平面上で地の間と書かれた部分の距離を出す。

下の写真のように補助線を描くと分かりやすいと思います。

補助線を描くと直角三角形が現れる


この設計ではサイドエンドから中心までは1400㎜、直角三角形の立ち上がり部分は450㎜ですから、三角関数の計算をして地の間の実長を出すと

1,400 x² + 450 x²=2,162,500

2,162,500√x=1,470.544116985270000

となります。
面倒なので小数点以下は切り捨てて、地の間の実長は1470㎜となります。

地の間(直角三角形の底辺)が出た

実際にはリッジラインの実長を出す時も三角関数を使うので、(2,162,500)のままでも良いと思いますが、手順のイメージがつかない場合には一度立体を二次元に分解してあげるほうがわかりやすいと思います。

次にリッジラインの実長を求めていきます。

1470は地の間、1200はピーク高さ

ここで再び三角関数を使うと、

1,470 x² + 1,200 x²=3,600,900

3,600,900√x=1,897.603752104216064

となりますから、DAMSELFLYのサイドリッジラインは≒1897㎜となります。

最終的に必要なサイドリッジラインの長さが出た

なるべく正確に計算したい人は各段階で小数点は切り捨てずに最終的な数字を出せば良いでしょう。

こうして各部分の必要な実長をシェルターの全てに対して出しておきます。

キャットカットの深さを決める

DAMSELFLYはサイドリッジライン(計4本)にキャットカットを施している。

キャットカットは自作家が1番頭を悩ませる部分ではないかと思います。

大工の世界では「大工とスズメは軒で泣く」という言葉があって、軒反りを作るのが難しいとされていますがこれと似たような感じではないでしょうか。

キャットカット(cat cut)とはcatenary cutの略で、訳すと垂下曲線ということになります。

これはロープを自然に弛ませた時の曲線であり、橋梁の吊りワイヤーなどの計算にも使われますから、数式で計算することが可能です。

ただし、シェルター作りでこの〝撓み(たわみ)〟を作り出す場合には、厳密な垂下曲線である必要はなく、パネルの張力が抜ける部分をあらかじめ切り取ってあれば問題ありません。

計算で出すと、起点から最もcatenaryが深い部分までの経過部分の寸法も細かく出てしまうために、それを正確にマーキングして裁断するのは個人の自作家には非常に難しいと思います。

CADで設計して、それをレーザープレカットマシーンに入力して裁断するのであれば可能です。

まぁ垂下曲線である必要がないと分かれば、深さを決めるだけです。

気楽にいきましょう。

このキャットカットの深さをどれくらいにすればいいのかということは、これも特に決まりがあるわけではなく、基本的には深ければ深いほど張り詰めたピッチになります。

ただあまり深くすると内部が狭くなりますので、その辺のバランスが大切です。

また、キャットカットは隣り合うパネルが形成する角度によって出てくる曲率が変わりますから、心配な人は少なめから始めるといいでしょう。

隣り合うパネルの成す角度が開けば開くほど、撓みが強く出ます。

例えば平面が長方形のミッドの場合、フロントパネルとサイドパネルの成す角度はそこまで開いていないため、少し強めのキャットカットでも良いでしょう。

これが六角形や八角形になると、隣り合うパネルの成す角度は開いていきますから、キャットカットは少なめで充分です。

この辺は初めに描いた設計によって変わってくるのでなんだかフワッとした話になりがちですが、具体的な数字で言うとDAMSELFLYではサイドリッジラインの計4本に30㎜のキャットカットを施してあります。

これは断面を描いてフロント/サイドパネル接合部分の開き角度を作図して、設営した時にどれくらい撓みが出るかを検討して決めました。

長さに対する比で出す人もいますが、これはそれだけ経験的に撓みがどれだけ出るか分かっていないと独自の深さを決めることはできません。

作図や計算が面倒な人におススメなのは、通常のミッドの場合はおおよそ各リッジラインは180㎝程度の長さになりますからその場合はまぁ25㎜(1インチ)程度でいいかと思います。

ずいぶんテキトーだなって感じですが笑

ミッドではありませんが、断面から自分の想定している撓みを出す作図を以下に示します。

DRAGON FLYの立面図

Aフレームの場合はまず立面図で好きな撓みを描き込みます。

ピークを結んだ直線からの深さを測り付けます。

縦断面図に深さのポイントを出します。

深さのポイントからサイドタイポイントまでの距離を出します。

立面図で描いた深さを写して、サイドパネルの中心線でどれだけの距離になるかを測り付ける。



各パネル展開図(全て直線で描いたもの)から、平に直した時にどれくらいの実際の切り取り深さになるかを測り付けます。

決定。

まぁ図面とかに慣れてない人にはなんのこっちゃな話だと思います笑

とにかくキャットカットには正解がないので、マジで追求したい人はタイベックなどでプロトタイプを作って検討することをオススメします。

そんなんしてる暇ねえよ!って人は、上記のように25㎜/1800㎜の比率を基準にして考えるので充分かと思います。

どちらにしてもミリ単位で調整しようなんて考えないことです。
数字が細かいほど正確な裁断を強いられることになります。

キャットカットの難しいところは、全体的な設計との総合的な関連で出来上がりの撓みが決定するということです。
どのような形になるかは、前述の基本設計が大きく関連してきますので、文字通り正解がありません。

キャットカットの深さを決めたら、パターンを作っていきます。

曲線を出すのに、ボクは写真のような細い定規を使います。

撓い定規

これは社寺建築では「撓い(しない)定規」と呼ばれるものです。

おおよそ9㎜程度の細長い角材で、これをしならせて曲線を描きます。

社寺建築の原寸引き付けで使う定規ですが、目切れのない木材で自作します。

社寺の特徴である反り上がった軒先の曲線も数値の計算によって出す場合がありますが、伝統的にはこれで簡易のクレソイド曲線を作って作図します。

シェルターのリッジラインに曲線を引き付ける場合には、まず作図で出した長さの真ん中で好みの深さのポイントを付けます。

曲線の起点となる両端を固定して、あとは撓い定規を深さまで引き下げれば自然な曲線となります。

ハギレを使ったデモンストレーション

パターンを作る場合には、作図で出した実長を使ってベニヤ板や型紙にパネルの実寸大を切り出し、同じように撓い定規で曲線を引き付けて切り出します。

DAMSELFLYサイドパネルのパターン。

この時、ベニヤ板で作成するとそのまま裁断の当て定規として使えるので便利です。

個人的に一つだけ作る場合はパターンを作らずに、生地に直接マーキングして裁断すると良いでしょう。

パターンを作るにしろ直接裁断するにしろ、縫い代を辺縁に加えるのをお忘れなく!

全てのパネルをこうして裁断していきますが、この時にループやプルアウト、設計上のパネルの境目などの位置をマーキングしておくと後々便利です。

全ての裁断が終わったら、あとは組み立てるだけです!
設計上のパネルの境界線を合わせながら慎重に組み立てましょう。

終わりに

いやー、今回も長くなっちゃいました笑

手描きでの作図はなかなか説明が難しいのでうまく伝わったかは分かりませんが、なるべく正確に設計しておけば、多少工作に不備があってもリカバリーは可能です。

ボクは、実はこの作業が1番好きで、あれこれ考えて想像を膨らませてる時間が楽しいですね。

もちろんその時は自分が今まで歩いてきたトレイルのことを思い出しながら設計するわけですけど、経験の多い人も少なく人も、もしくは長いトレイルをまったく歩いたことがない人も、こうして想像しながら何かを作るということはワクワクする人が多いんじゃないかと思います。

そして、作ったらどんどん歩きましょう!
それが新たな経験になって、また何か作りたくなるはずです。

Make your own trip!
and…
Happy trail!

いいなと思ったら応援しよう!