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0017 どん底の人々(読書)

ジャック・ロンドン著「どん底の人々」

イギリスの、下層の人々が住む町に潜り込み、生活したジャック・ロンドン。陽気なアメリカ人だったが、最後はもう町から離れ、この本を書くために、図書館で新聞紙を読んでの感想になってしまった。

町に入っていけなくなってしまったのは、あまりに悲惨な風景を見続けたから。
そこには神もいないし、自由も博愛もなく、労働が報われない場所だった。
働けば働くほど擦り切れて、最後に行きつく場所は、どん底だという。一日の宿となる救貧院にも入れなくなるのだ。

食べ物を求めて、教会の祈りを聞きに行くけれど、地獄で生活しているから、祈りなどどうでもよくて、終わった後に配られるパンとスープが早くほしい。(そのパンやスープだって、ひどい味だそうだ)
魂の救済の前に空腹を癒さなければならない。
空腹は神をも殺す。
キリスト教徒がそう書くのだから、無宗教の私もちょっとしびれるものがあった。
信仰というものがいまいちピンとこないのだけれど、生活の端々にキリストの考え方が浸透している彼らが見た、神が殺された世界はよっぽどショッキングなものだろう。神がいないのではなく、殺されている、と彼は書いたのだ。

体が動けなくなり、下降して、下降して、能率よく働かなくてもいい場所に行きつき、やがてたどり着いたどん底では、もう死ぬ以外にない。
人間は、すぐには死なない。動けないから自殺もできない。じわじわと苦しみの中で息絶えていくのだ。

人らしい死に方すらもできず、虫に食われて見つかった老人を見、アメリカの陽気な若者は、現場に行けなくなった。
もともとアメリカでも貧乏暮らしで、苦労しているのだが、アメリカの貧乏でもこうはならない、と言わしめたロンドンイーストエンドの世界は、出口の見えない地獄だったのだろう。

彼は、人間が人生から得るものは、自分が要求するものより少ないと書いた。福沢諭吉にも「欲が人を動かす」とあった。
最初から、人生に求められるものが少ないイギリスの下層の人々は、もっともっと得られるものが少なくて、永遠に救われず下降をし始めたら止まらない。

後半は新聞記事から読んだこと、政治への、社会への批判が多くなって、それでも今に通じるようなことばかりだったので、一瞬最近書かれたものかと錯覚しそうになった。(ジャック・ロンドン自身は、社会主義思想の持ち主のようだ、なんかちょっとアメリカ人には珍しい印象)
前半は、もう神もないしご飯もないし、腐臭が紙面から立ち上ってくるようで、あまり長時間読み続けられない。でも引き込まれるから怖い。
ちょっと現世に戻ってきて、よしまた行こうと思って読み始める。
まるでジャック・ロンドンが拠点となる部屋を借り、イーストエンドでの生活がきつくなると戻ってくる、そんな方法に似ている。

どんな世界なのか見てみよう、という気持ちで覗いてはいけない、地獄だった。


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