Lolita is DEAD?(楠本まき)
僕は、結構漫画を読んできた人間だと思っています。
恐らく人生に於いて、小説よりも漫画の方が作品数で言えば恐らく半分半分、下手をすれば漫画の方が多いかもしれません。
僕にとって漫画に於いて一番重要なのが絵柄なのです。
漫画の単行本の表紙を見て自分の好みの絵柄でなければ歯牙にも掛けない。
それが世間的にどれだけ高い評価を得ている作品であろうとも見ない!
であるので、このご時世になっても社会現象になっている鬼滅の刃の原作を読んでいない。
という意味では、楠本まきさんの作品との出逢いは特殊だったと言えます。
楠本まきさんについて知ったのは確か、当時Lolitaの友人が面白いとネット上で発言してくれた事がキッカケでした。
それで本屋さんに行って探してみたのですが一向に作品が見つからない。
それもその筈、情報は作者の名前だけでどこの出版社から出ているだとか、どういう表紙だとかいう情報を一切持ってはいませんでした。
当時、少女漫画を男子が読む事が増え始めていたとは言え、男子が長時間少女漫画の棚の前を行ったり来たりしているのは不審な光景だった事でしょう。
一通り探してみたものの、単行本が見つからない。
諦めて帰ろうとしたところに、漫画のコーナーの一角に少し違う感じの棚を発見しました。
ん?なんだこの棚は?
と思い棚の上部に目をやると
『大判コミックス』
という表示が。
週刊誌や月刊誌に連載されている作品のコミックスよりも、一回り大きな大きさの本が漫画だとは思わず、素通りしていました。
もしかして…と探していると一冊だけ『楠本まき』という名前の書かれた本の背表紙を見つけ出す事が出来ました。
そのタイトルが…
『致死量ドーリス』
…
…
…
訳分からん。
が率直な感想でした。
タイトルから全くその内容を推し量ることは出来ませんでした。
僕はその本を手に取ろうと棚から引き抜きました。
表紙が目に飛び込んできた瞬間、僕は言葉を失いました。
真っ白な表紙に銀の箔押しで描かれた鋏。
その隣には『DIE TŌDLICHE DOLIS』『MAKI KUSUMOTO』の文字。
その下に帯で作品名と作者名が書かれていたものの、その殆どが白に覆われた表紙。
その白の鋭さに惹かれて購入しました。
そして中身を数ページ見て…
「あ!これ絵柄の苦手なタイプだ」
となってしまいました。
キャラクターの身体の線の細さと荒さ、大きく主張する目。
まるでこの登場人物が生気の感じられない人形のように感じました。
しかし、購入したからには最後まで読まないと勿体ないと読み始めると…
「あれ?話凄いぞ?コレ!」
という感じでどんどん話に引き込まれていきました。
話が非常にエキセントリックなだけではなく、主要な登場人物の台詞や心理描写が極めて詩的で無駄なものが限界まで排除されている事によって、一言が与える印象の強さというのが極限にまで研ぎ澄まされているような感覚になります。
気がつくと、苦手だった筈の絵柄が徐々に話と融和していくような感覚になったのを覚えています。
最後も様々な解釈を残すもので、気持ち悪さはあるものの、終わり方は嫌いではありませんでした。
この一冊で、僕は楠本まきという作家がどういう作品を書く人なのかという事を知りました。
様々な作品に共通しているのは、主人公が何処かに空虚さを持っている事です。
その空虚さを埋めるのは、パートナーとなる人。
その人の種類は様々で、大概は主人公と正反対の性格をしている異性である事が多いです。
そしてお互いがお互いを知ろうとする事で存在が一つに溶け合うような感覚になります。
Boy meets Girl.なんて使い込まれた言葉がありますが、楠本まきの作品には常にそれが付いている感覚があります。
決してハッピーエンドでは無いのですが、本人同士はそこに辿り着く事を望んでいるような。
決して屈強では無い物語。その脆弱さを表現するにはあの絵柄でないといけないのだと思っています。
この『致死量ドーリス』も彼女の代表作なのですが、
もう一つ『KISSxxxx』という代表作があります。
バンドマンの『カノン』とそのバンドのドラムの妹『蟹かめの』の恋物語。
この物語は、1988年から連載された作品で当時大人気を博しました。
というのも、同時期にZI:KILLの大ヒットアルバム『CLOSE DANCE』のジャケットを描かれたのです。
ZI:KILLは当時、X JAPANのhideさんが気に入ってEXTACY所属にしたバンドでした。
Vo.TUSKさんはhideさんと共に映像作品に出演されたりしております。
当時、メチャクチャに人気のあったバンドで、あの現L'Arc〜en〜Cielのyukihiroさんが参加されていたバンドでもあります。
古き良き耽美なヴィジュアルのバンドで、その功績も非常に大きなバンドでした。
そして、当時のバンドの雰囲気にピッタリだったこのジャケットは音と相まって非常に高い評価を受けました。
そんな中連載中だった『KISSxxxx』に注目が集まりました。
当時まだヴィジュアル系などという言葉が無かった頃に、今までに無いようなバンドを軸に描いていった事は当時としては非常に大胆な物語だったのでしょう。
基本的に一話完結の物語で、その終わり方がいつも切なさを残して終わる手法は乙女の心を捉えたのです。
当時、化粧バンド推しの方々が狂喜乱舞したのは想像に難くありません。
また、登場人物のファッションにも大きな注目が集まりました。
特にメインヒロインのかめのちゃんの装いは現代のLolitaな装いに極めて近いものでした。
あと、バンド関係のファッションもパンクをベースにしながらもゴシックな要素が入っていたりと非常に面白い。
30年前の作品ですが、洋服が好きな方は今読んでも凄く楽しめるかと思います。
あと、昨今のイベントのコンセプトが既にこの人の頭の中にあったのか!と思うと驚くと思います。
そういう見方をされるのも面白いです。
現在、楠本まきさんは主な拠点をロンドンに移されて生活されているそうです。
それに関するエッセイなんかも発売されているのですが、非常にオシャレで可愛い。
作品とのギャップに驚くと思われます。
Lolitaちゃんだけでなくバンギャちゃんにもお勧めです。
こういう世界観、好きだと思うので。
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