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界面が怖いのでしょうが 裏世界ピクニック8巻感想

関係性の決着

・というわけで読みました。裏世界ピクニック8巻「共犯者の終り」。すごい、「小説以上の尊い何か」だ(ダメな褒め方)。ここまで続いてきた関係性の決算でありつつ、空魚と鳥子の恋愛について、人と人の関わりについて素描のようにひたすら補助線を引いていくそれ自体が挑戦のような小説。

恋と愛と性

・「恋愛パック」とそうじゃない形の話、お、大人の話だあ。
・今回かなりあけすけな話題が出てくるけど、この辺は8巻のテーマ的には避けて通れないしなあということで。
・共犯者を「恋愛よりもすごい関係」とみなす空魚。百合を「恋愛よりも尊い関係」として(やや無神経に)処理する現象に対する本作なりのアンサーなのかなあと思ったり。この辺は重石として必要な処理とは思う。
・一方で、相手を傷つけないラインは守っているつもりでも、冗談とかでそれを踏み越えてまうかもという、そういうヒヤリとする場面を空魚に体験させてるのは、それはそれで想像力というか、バランスだよなと。

ファーストコンタクトと進歩史観

・紅森さんとの会話で進歩史観の話が出たり、辻さんとの会話で認知SFっぽい話が出た後、迂遠な会話を自分への皮肉と勘違いする夏妃のエピソードが出てくるの、SF×関係性の繋がりっぽくて本作らしいなあ。
・……と思ってたけど、これ、ファーストコンタクト未満の状態ってどんな状態?って話なんだな。自分にとってある話題やある関係性ってなに?と考えられても相手にとってのそれを考えられない。「自分たち」の話題について考えてるつもりで、結局は「自分」の話に終始してしまう。
・一方の鳥子は空魚のもつ「わからなさ」について自分なりに想像力を働かせて、歩み寄りを考えていた。そういうファーストコンタクトの話だと。

・1巻の終盤で「オフィーリア」の思い出に対する空魚と鳥子の認識の違いがロマンチックに描かれる場面があったけど、今回の「元気だなこの子」のくだりもその延長っぽい。こういう、見えてるものは主観とそれ以外で違うという部分でのものの見方は一貫してるよなと思う。

知ることと知られること

・空魚のスイッチがアレってのはさ、知られるのが怖いってことじゃん。だから、空魚、知ろうとする気持ちが未熟だったってのも本当だろうけど、鳥子が「知らないことで傷つける」のを恐れてたくらい「知ることで傷つける」ことを恐れてたんじゃないだろうか。
・いや、それ言っちゃったらそれ自体が「自分基準で判断してる」って話になってしまうわけではありますが。
・とはいえ、実際、鳥子は親の仕事について知られることを恐れてたわけだし。
・知られるということは相手の世界の支配下に置かれるかもしれないということ。知るということは相手を自分の世界の支配下に置くかもしれないということ。

空魚について

・こいついちいち鳥子のことなら一目で見分けられる系の描写が入るな。
・空魚が他人に関心薄いのはずっとだったけど、いざ関心を持ったときの壁というのが具体的になってきてステージが進んだ感じがしますね。
・ホラー知識やネット知識の描写が多い分、ほかのキャラより物知りに見えるシーンが多いけど、テリトリーの外にある話題だと弱いというのが浮き彫りに。

・「もしかすると、本当に雑談するつもりで話しかけてきたのか。そんなこと、あり得る?」めちゃくちゃ紙越空魚の文章でいい。
・以前の空魚って人に会いに行くのに結構外的な理由が必要だったんですけど、その辺も変わってきている感じがしますね。
・いや、今回のも外的な理由といえばそうだし、メタ的にはキャラが増えたっていう身もふたもない理由もあるっちゃあるんですけど。

キャラ小説として

・紅森さんとか辻さんとか、また濃いキャラが出てきたことで。
・小説の中でのこの人たちの役割、空魚を相対化するというか、「色々いる人」の一人に戻す作業なのかなという。

・会話のテンポ、そういえば作者はkemtとかにハマってた人だったわと思い出したり。
・汀さんの過去もちょっと出てきた。辻さんの経歴とかと合わせて、この辺引き出しの中から直接空魚と鳥子の話には入れられない話を盛り込んでるのかなと思ったりもする。
・引き出しといえば、霞のワードサラダや小桜さんの異常会話のとこも蔵出しのなんかみたいなやつなのかなーとか思う悪い読者。

ホラー要素について

・裏世界は内面が投影されてるように思える部分もあるけどそれだけではない。なるほど。
・裏世界が人によって違う働きかけをするかもというような想像は前々からファンの間でもあったけど、裏世界そのものではない形のインターフェースもあるのではってことで一枚上回ってきましたね。

・今回の怪異はむじな。顔がない、あるいは理解できない。顔というのは当然インターフェースであるわけですよね。多少すれ違いがあっても、とりあえずこういう表情だと安心できる。それがない。
・ネット発のいわば現代ホラーを下敷きに始まった本作。だんだん小泉八雲とかの古典の要素が増えてくのは一種の宿命なのかなと思いつつ、考えてみたら初期からそういう目線はあったんですよね。
・くねくねの時点で現代ホラーを蛇神とかの由緒あるものにつなげる話は出てたわけだし、もしかしてもともと埋め込まれてた要素?

はじまり

・今回は関係性:SF:ホラー=7:2:1くらいのバランスでしたけど、こっそりSFホラーとしての牙を研いでいる気配はあり。
・霞についてもまだやれる話はありそうですし、個人的にはドッペルくんの行動原理も気になりますね。
・攻めの姿勢が吉と出るか凶と出るかかなあ。
・外館さんとハナどうなった。

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