冬の夜中に犬を拾った話

ちょうど5年前、夜の11時くらいに車で帰路を辿って家に着く直前で何かが横目に入った。
「何かいたよな…」
どうしても気になったので、一旦自宅アパートまで行って車を停めてからその現場に戻ることに。

すると、それは1匹の犬だった。
とは言っても漫画で見るような子犬の捨て犬ではなく、雑種の成犬。柴犬くらいの大きさ。首輪も着いていて、リードは地べたに垂れていた。
野犬でも捨て犬でもなく、明らかに迷子犬。

そして寄っても来ないが逃げもせず、とにかく大人しい。ただ、こちらから安易に近づくと逃げられてしまうこともあるので先にリードを掴むことにした。

手繰りながら近寄るも逃げようとはしない。
そのまま撫でるも、特別喜びもしなければ嫌がりもしない。
何とも不思議で静かな犬だった。
「来るかい?」
そう話し掛けてリードを引くと普通に着いてくる。見知らぬ人が嫌いではないようで安心した。

その時は彼女が部屋で待ってた。
「ただいま。犬、拾ってきたわ」
「は?え、でか。なにそれ噛まない…?」
彼女は以前、犬が苦手だったが「不気味なほど何もしない」と伝えたら少し安心してくれた。
「どうすんの?飼うの?」
「そんなわけ無いだろ。迷子だろうからまずは札を探すんだよ。暗くて何も見えなかったしね」
しかし、残念ながら札は見つからなかった。「どうすんの?」
「警察だろうなぁ…」
ダメ元で最寄りの警察署に電話するが当たり前のように出ない。仕方無く110番することに。
「事件ですか?事故ですか?」
「あ、いえ。そういう緊急ではないんですが…。すみません…。あの、夜中に迷子犬が見つかりまして、最寄りの警察署に繋がらなかったもので仕方なく…」
そう伝えると、担当地域の警察官の携帯に繋いでくれた。正直怒られるかと思ったけど、110番って案外柔軟なこともしてくれるんだなと思った。

どうやら別の通報があって人が出払っているらしく、夜中に保護には向かえないとのこと。
よって翌朝に来てもらうことになり、一晩預かることになった。

「どうすんの?」
「万が一おしっことかウンチとかされると困るからなぁ…」
「外に繋ぐの?」
「何のために拾ってきたか分からんだろう。それに、他の人が朝出る時に無駄に驚くわそんなの」

結果的に玄関にいてもらうことにした。そこになけなしの断熱材の段ボールを敷き、なけなしのタオルを敷いた。

その時の写真。リードはドアノブに繋がっている。

そして、近くのコンビニに行ってドッグフードの缶詰を買って与え、ぬるま湯も置いておいた。餌も素直に食べてくれた。
そんなことを済ませてから、やっと夕飯を取ることに。

「本当に大人しいからさ、撫でてみたら?可愛いよ」
「えー、怖い…。噛まない?」
彼女は躾のなってない大型犬に追い掛けられたトラウマがあった。
「噛まないよ。舐めてもくれないけどね」
犬は友好の証や愛情表現として人をよく舐めるが、さすがにそこまではしてくれなかった。

恐る恐るではあるが、頭をゆっくり撫でることができた。
「どう?」
「ふわふわ…」
「怖くない?」
「怖いけど、昔ほどじゃないかも…」
今では大きい犬ががっついてくるようなことでもなければ犬をそんなに怖がらない。そんな切っ掛けの1つだったのかな、と振り返って何となく思う。

寝る時には、なけなしの暖を取らせるために玄関まで扉を開けたままで暖房を付けて寝た。

――翌朝

8時くらいに警察官が2人来た。悪いことはしてないのに何故か心臓に悪い。
そして犬を引き渡し、遺失物何たらみたいな書類に記入した。こういった書類上での動物は"物"なのだと改めて知った。

「大丈夫かな…」
彼女は不安そうだった。
「最悪は保健所で処分だろうけど、やれることはやったさ…。ほっといても寒さや空腹に餓えたり、近くにバイパスだってあるから轢かれる可能性だって無駄に高いよ。可能性を繋いだだけでも十分だろ…」

1週間程して「飼い主が見つかった」との連絡を警察から受け、安堵したし本当に良かったと思った。
そして「お礼の電話をしたいそうなので、書いていただいた電話番号を飼い主の方に伝えても大丈夫ですか?」と聞かれ、それを承諾した。

その連絡は今現在未だに来ていないことが、この話のオチである😇
警察から飼い主に伝えた番号が間違っていたと信じてます😇😇

ちなみに彼女は猫派なので、あらゆる猫さんを崇拝してます🐱
「犬は犬、猫は神の遣いで天使」と言ってます。

        終
制作・著作
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