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【バブル】お金と歌だけの関係

思わせぶりなタイトルですみません。その昔ハイポジが好きでした。
バブル時代に大学生だった私は、当時社会にダブついていたお金の恩恵に預かることも特になく、仕送り3万円に対して家賃3万4000円の雑司ヶ谷の風呂なしアパートに暮らす貧乏学生だった。貧乏の常で欲しいものが何でも買えるわけではなく、吟味して買ったものはとにかくとことん使い込む。それは音楽CDも同じだった。聴き込む。今のように出るもの何でも好きに買えるわけではない(そもそも音盤はなかなか出なくなっちゃったけれど、まぁそれはそれとして)ので、1枚3000円は大枚はたく真剣勝負だった。で、じゃあいったい当時、実際は何を聴いていたんだろうとふと思いいたり、三連休の暇にあかせて主なものを思い出してみる。発売年とかを調べ直してみると、けっこう記憶のズレがある。捏造されていた記憶が修正できる機会にもなってよかったかもしれない。

【1986年】
ピーター・ガブリエル「So」(3月19日)
ザ・ストリート・スライダーズ「天使たち」(11月21日発売)
年間通じてほとんど買ってない。大学受験に失敗(いっさい勉強してなかったので当たり前)して代々木に通う浪人生だったことと、CDへの移行期だったことが原因だろう。生まれて初めて買ったCDが「So」で、なんでこれにしたかは覚えていない。当時MTVでやたらかかっていた「スレッジハマー」の影響か。予備校への行き帰りの小田急線では、ドアにもたれかかってウォークマンでひたすらストーンズ。とりわけブルージーな「ベガーズ・バンケット」を1年間聴き通した。No Expectationsなんかほんとばっちりはまる1曲だった。浪人生活が始まったばかりの4月に人気アイドルが自死したりして、世の中もなんだか物々しく騒然とした感じでけっこう不穏なムード。スライダーズはそんな世相にも寄り添ってくれた。
それはそうと、受験勉強の合間にはときどき渋谷のシネセゾンや六本木WAVEのシネヴィヴァンで映画を見たりもした。山出しの浪人生としてはそれなりに東京の風に触れた時期。またたぶん宇田川町にあったタワーレコードにも行った。
12/27日経平均株価終値 1万8701円30銭

【1987年】
U2「ヨシュア・トゥリー」(3月9日発売)
フリートウッド・マック「タンゴ・イン・ザ・ナイト」(4月14日発売)
エアロスミス「パーマネント・ヴァケイション」(8月18日発売)
ミック・ジャガー「プリミティブ・クール」(9月14日発売)

1年間の浪人生活でしゃかりきに勉強したかいあってか、無事大学生になったこの年。関係があるのかないのか85年のプラザ合意を経て世の中はバブル的な様相になっていて(浦島太郎みたい)、とにかくユーミンとかが流行ってた(彼女は前年に「アラーム・ア・ラ・モード」、本年末に「ダイアモンドダストが消えぬまに」を発表してバブルの象徴になっていく)。
社会が浮足立っていく感覚は前年くらいからあったけど、この年から本格的に空気が入れ替わったかな。日本の音楽シーンだけについて個人的体感で言うならば、沢田研二が「TOKIO」をリリースした1980年1月1日から始まったパンク/ニューウェーブな時代がここで幕を閉じた感じ。8年間。神奈川県のローカル中学1年坊だった私は東京の大学生になっていた。
この年の日本の年間アルバムチャート上位50を見てみたら1枚も持ってない(当時買ってないのはもちろん、今に至るまで)。浪人生だった前年までの感覚の余波で、リアルタイムに発売されるものを追いかける姿勢がまだ確立していなかったかもしれない。ローリング・ストーンズの1970年前後のアルバムとかを相変わらず聴いていたんじゃないかと思う。バブルっぽくない。
ミックのソロアルバムは1stよりもこっちをよく聴いた。ソロ初来日は翌88年の3月。池袋のぴあに徹夜で並んでチケットを手に入れた。エアロスミスはデュードとエンジェルばっか聴いてたような気がしてたけれど、さっき聞き直したらちゃんと全部通して聴いてた(あらためて、捨て曲なしのすげぇいいアルバム)。マックはMTVで知ってからとにかくスティービー・ニックスが好きで、リアルタイムだったこのアルバムは再生回数で言えば「噂」とかより全然聴いた。この年の5月21日に出たというブルー・ハーツの1st「ザ・ブルー・ハーツ」(あの青と白のジャケットのやつ)は買っていない。Wikipediaによるとオリコン最高31位なんだ。そんなもんか。そこがいいんだろう。
12/28 2万1564円00銭

【1988年】
泉谷しげる「吠えるバラッド」(1月21日発売)
RCサクセション「MARVY」(2月25日発売)
スティーヴ・ウィンウッド「ロール・ウィズ・イット」(6月発売)
山下達郎「僕の中の少年」(10月19日発売)
ジュン・スカイ・ウォーカーズ「ひとつ抱きしめて」(11月10日発売)

世間的にはBOOWYが席巻してた年(本年4月に東京ドーム2発をもって解散)。邦ロックが社会現象になった初の事例だと思うが、個人的には詞がどうにも合わずほぼスルー)
村上ポンタ、吉田建、下山淳という顔ぶれのバンド、ルーザーを率いて吠える泉谷が、麻雀とビリヤード浸りで先行き不透明なポンコツ大学生の気分にハマった。中学生のときにいちばん聴いた大瀧詠一に比べて距離があった山下達郎はアルバムとしてはこれを最もよく聴いた。その後40代になって「FOR YOU」とか「Melodies」「ポケットミュージック」とか、あと「ライド・オン・タイム」とかをLPで買っている。ライブに行ったことはまだない。
「すてきな夜空」のMVをみてのけぞってファンになったのがジュンスカ。ドタラタドタラタって叩くドラムがそれまでのどんなバンドとも違ったのがたぶん理由。インディーでアマチュアっぽい音楽が面白く感じられるようになったのは彼らのおかげなので感謝しないと。ロンTに細身のブラックジーンズという格好も、貧乏学生には真似しやすかった。
ちなみに森高千里はこの年に「ミーハー」とか「見て」を出している。ふーむ。
12/28 3万159円00銭

【1989年】
甲斐よしひろ「カオス」(2月22日発売)
ユニコーン「服部」(6月1日発売)
ボ・ガンボス「BO&GUMBO」(7月1日発売)
エレファントカシマシ「浮世の夢」(8月21日発売)
ローリング・ストーンズ「スティール・ホイールズ」(8月29日発売)
カステラ「世界の娯楽」(9月1日発売)
ティアーズ・フォー・フィアーズ「シーズ・オブ・ラヴ」(9月25日発売)
THE BOOM「サイレンのおひさま」(12月1日発売)

夏休みはとにかく服部。何が何でもひと夏服部。冒頭のインストオーケストレーションをいま聴き直しても、あの年の夏の気配がブワッと湧くから大したもんだ。何も持ってなかったけど野心だけは少し持ってたあの夏(その後の就活局面で日和ったけど)。
秋の学祭は大音量でボ・ガンボス。京大の学祭でのトラックで演奏しながら京都の街中を練り歩くボ・ガンボスと盛り上がる若者たちを当時の映像(ユーチューブに上がっている)て見ると、学生パワー、みたいなものがまだ社会に向けて少しは影響力を持っていたんだなあ、と京大出身ではない自分だが思ってしんみりする。
エレカシの3枚目はボーカルを極端に前に出したミックスが衝撃で、アパートでとにかく大音量でよく聴いた。あれは規格外な感じで痛快だった。今も持ってるこのCDのケースはタバコの脂で黄色く染まっている。カステラの1stはとにかく、自分にとってバンドブームの象徴。金に浮かれる世の中をシニカルな目線でからかい遊ぶトモのやり方がおもしろくて、後にCBSソニーへの入社を考えた(受けたかどうかは忘れた)
12/29 3万8915円87銭

【1990年】
ザ・バンド・ハズ・ノー・ネーム「ザ・バンド・ハズ・ノー・ネーム」(1月21日発売)
フライング・キッズ「続いていくのかな」(4月21日発売)
甲斐よしひろ「エゴイスト」(5月23日発売)
フリッパーズ・ギター「カメラ・トーク」(6月6日発売)
たま「さんだる」(7月10日発売)
すかんち「恋のウルトラ大作戦」(7月21発売)
エレファントカシマシ「生活」(9月1日発売)
THE BOOM「JAPANESKA」(9月21日発売)
RCサクセション「Baby a Go Go」(9月27日発売)
ユニコーン「ケダモノの嵐」(10月1日発売)
岡村靖幸「家庭教師」(11月16日発売)

たぶんあんまり映像が残っていないザ・バンド・ハズ・ノー・ネームだけど、深夜番組で歌った「Something Wild」がユーチューブに上がっていて、これがたいそうかっちょいい。奥田民生がバンドメンバーに徹してるところが好感で、こういうシンプルなギターロックバンドでバランスを取ることが、バジェットが拡大してビジネスが複雑化していくユニコーンのフロントマンとしては必要だったんだろうなあなどと思う。
フライングキッズ、そしてたま。イカ天ブームもそろそろ終わりというタイミングで「満を持して」実力派が1stを出し、本年末の番組終了へと向かう。週末の深夜が毎週ホント楽しみだった。たまを見に行った夏の日々野外音楽堂イベントですかんちを知って好きになった。アルバム、たいがい持っててそれぞれ聴きどころがあるけど、この1枚目がやっぱり好き。洋楽を(たぶん)意識してあんまり買わなかった頃。邦楽に佳作が多い。RCはこのアルバムでフェアウェル。
12/28 2万3848円71銭

【1991年】
スピッツ「スピッツ」(3月25日発売)
すかんち「恋のロマンティック大爆撃」(4月25日発売)
ムーンライダーズ「最後の晩餐」(4月26日発売)
ニルヴァーナ「ネヴァーマインド」(9月24日発売)
ユニコーン「ヒゲとボイン」(9月30日発売)
マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「ラブレス」(11月4日発売)
セイント・エティエンヌ「Foxbase Alpha」(発売日不詳)
マシュー・スウィート「ガールフレンド」(同)
スティング「ソウル・ケージ」(同)

年間アルバムチャートの上位はユーミンとかチャゲアスとかプリプリとかサザンとか初期小室系の独占状況で、個人的にはあまり関心を持てず。一方でバンドブームはいよいよ収束方向。ほんとシュワシュワとしぼんだ祭りの後。音楽的意匠を解体・再構築する渋谷系の手法(音楽に限らず)が社会現象になる前夜。その元祖みたいなライダースが腰の重心低めのロックアルバムで活動再開したのも時代の必然か(適当発言)。このバンドはバブルの期間まるっと休んでいたことになるんだな。
個人的には就職して活動範囲と可処分所得が一気に拡大したこともあって、洋楽の比較的隅っこの方を突っつき始めた。というか、洋楽のメインストリームがこのバブルの間に霧消していた。いわゆる外資系レコードショップの大型店舗が相次ぎ開店したことも大いに影響した(暇があれば通ってた。暇がなくても。新人なんだから仕事しろよという)。スピッツの1stはどこで買ったんだったか。めちゃめちゃいいですよ、とあちこちで話したけれど失笑されるばかりだったのをよく覚えている。確かに変な感じだったもんね最初期のスピッツ。私が評論家なら何か名前をつけてやる。
12/30 2万2983円77銭

1992年から1998年くらいまでは音楽シーンが多ジャンル化して、CDも全盛期でカタログ化し、個人的に音楽という趣味はたいへん追いかけがいがあった。まだ独身で予算も比較的潤沢だったので、そうとうたくさんの音源を貪った。それらの大半は売ったり捨てたりせずにまだ我が家にある。家人にはそろそろ(終活に向けて)始末しろと言われるけれど、その後、いまから10数年前にアナログプレーヤーを手に入れてからは70年代ロックと昭和歌謡を中心に中古LP漁りにも手を出して、もう収拾がつかない。また気が向いたらこんどは1992年からの文章でも書くつもり。レモンヘッズ、ソニック・ユース、ミスチルあたりからかな〜。ちなみに1992年12月30日大納会の日経平均株価終値は1万6924円95銭。氷河期はすぐそこに近づいている。

2024/09/15

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