kaidan 5夜目
夢の女
いつの頃からですかねぇ。。この夢を見だしたのは。
毎日見るわけではないんですが、この夢を見た時は
目覚めたとき忘れていないんですよ。細部に至るまで。
元来自分は見た夢を覚えているというのは少ないんですが。
それなのに、この夢だけは違う。
それは、ある特徴があるからなんですけどね。
夢の大筋はこうです。
朝、眠い目をこすりながら洗面所に向かい歯磨をはじめる。
なんてことはない、誰でもやってる朝の風景です。
口に含んだ水を飛ばさないように、下を向いて水を吐き出し
正面の鏡を見ると背後に見知らぬ女が立っている。
ただそれだけ。
初めはかなり驚いた。だってそうでしょう?ホラー映画じゃあるまいし
いきなり鏡をのぞくと背後に見知らぬ女がいるんだから。
でもね、別に血まみれだとか、蒼い顔で恨めしそうに見てるとか
そんなんじゃぁないんですよ。
ただ立っている。
立っているのを見てドキッととして目が覚めるわけです。
そんな夢を、もう何度も見ている。
ところが、ある所から現実を離れた展開になってきたんですよ。
鏡の中の女は、だんだん私の背後から遠ざかってゆくんです。
それだけじゃなくて、ついには洗面所を飛び出しているのに
まだ見える。
そうしてどんどん遠ざかってゆく。
そんなわけなんで、だんだんその夢を見るのが楽しみになってきました。
変な話ですけどね。
女はやがて、廊下を過ぎ、リビングに至り、まだ遠ざかってゆく。
最後にはベランダでに立ってる。この先はどうなんだろう?
ベランダの先は空中ですからね。空中に立ってるのかなぁ。なんて思ってたんですよ。
ところが、違いました。
いないんですよ。
ベランダの先の空中に立っていなかったんです。
この時初めて、自分自身が夢の中で動きました。
確かめたくなったんでしょうかねぇ。ベランダのところまで行って見ました。
私は周りを見回してみたんですよ。
でも、やっぱり。いない。
気にはなるけどやな感じがするんで下だけは見たくなかった。
だって、もし下を見たら女の死体が転がっていたら怖いじゃないですか。
私が住んでるのは12階です。そこから墜ちた人の姿なんて想像するだに恐ろしい。
それでも下を覗いてしまった。
でもね、そんなことをすべきじゃなかった。好奇心猫を殺すって言うじゃないですか。
まさにそんな感じです。
女は下に墜ちてなかったんですよ。
居たんです。ベランダのすぐ外に。
この時初めて女と眼があったんです。その眼はあり得ないほどカッと見開かれていました。
うわっ!と、思った時にはもう遅くて、私の頭は女の両手でガシッってつかまれたんです。
バランスを崩した私はそのまんま女の方へと墜ちてしまいました。
女と一緒に墜ち始めた私の耳元で、今私が話しているのと同じ話をするんです。
それでね、最後にこう言ったんですよ。
「次はあなたがこの役目よ」ってね。
だからね、頼みましたよ。
「次に話をするのはあなたなんですから」