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塩ビ製の鳥居と雑司ヶ谷【2019/09/10】

地下鉄の駅を出ると熱波が押し寄せてくる。紛れもなく猛暑で工事中の都電のパネルが必要以上に照り返していた。踏切の先にあるラーメン屋は冷やし中華を売り出しているようだったが開店前で、麻製の暖簾は涼しげではなかった。ピンク色の都電が踏切を横切るとわずかばかりの風が空間をかき回した。
鬼子母神前駅とメトロ雑司ヶ谷駅が隣り合っていて、都電の雑司ヶ谷駅は少し北に歩いたところにある。この矛盾した駅配置は好きだ。鬼子母神への石畳の並木は十分に日陰を作っていて、そこを吹き渡る風は先ほどとは別物のように涼しい。民家と区別のつかないカフェと美容院、そして不動産屋があって、一か所古民家カフェがあったが定休日だった。火曜日。

鬼子母神は由緒あるお寺で脇には千本とは言わないまでも鳥居がずらっと並んでいた。いくつかは昭和46年に建てられていて、隙間を埋めるいくつかが平成に建てられたもののようである。建設中の鳥居が積まれていて、本来地中に埋まっているはずの部分がむき出しに置かれていた。鳥居の中身を初めて見たと思う。

線路沿いに戻って雑司ヶ谷霊園に向かって歩くと、壁画が並んでいる。休憩を勧められているが、外は暑くてそれどころではない。暫し歩くと霊園に至る。漱石や泉鏡花などの墓がある。隠れた文学の聖地である。荷風の墓もある。これはとりわけ密やかである。文芸運上昇を祈った。

霊園案内図に「花屋」とある場所はこうなっている。静かでよろしい。日陰なので涼しい。喪服の一団が墓地の一角で僧の唱えるお経を神妙に聴いていた。

池袋のほうへしばらく歩くと、東京天狼院というカフェ兼ワークショップスペースの本屋がある。お客さんがお勧めの本を置いていく代わりにそこにかつて誰かが置いていった本をっ持って帰れるシステムがあるなどなかなか面白い書店だ。小説や写真について講座も開いている。

ワッフルも美味しかった。ベリーのソーダは暑い日には爽快である。店員さんと歓談ののち、雑司ヶ谷をあとにした。

池袋へ行く途中、壁一面が眼鏡で埋められた狂気の沙汰としか思えない「老眼めがね博物館」なるものもあった。やはり狂気である。
池袋が近づくにしたがって、日常に戻ってくる感じがする。緩やかに街が変化していって、気持ちも緩やかに日常に戻っていった。定休日だった喫茶店は今度行こうと思う。

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