『アモールとプシュケー』あとがき|プシュケー編&ブグロー絵画4点
プシュケーの人物像(容姿)
からだは食べ物でできています。
蜜の川のような栗色の髪、飴色の瞳、肌はミルク色であたたかいマシュマロのよう。そして賞味期限付き。
とろ火であたためると、マロンミルクティーラテ、マシュマロ&ハニートッピングのできあがり。
ギリシャ人は黒髪の人が多い気がするのですが、西洋の絵画で描かれた神々や人間が茶色づくしなの。タイトル画像として使わせてもらうつもりだったので、初めはほんとうに全員茶色の瞳と髪で書き始めました。でも、後に、風の神なら銀色とか青の方が…冥府なら黒かな…などと、イメージに合わせて変えていきました。(古代ギリシャの時代から、死のイメージは黒で表されていたそうです(._.)φ)
茶色の美しさって、描写がなかなか難しく・・・初めての試みだったので難儀しました。和洋の色の名前を、本やネットで調べて、割り当てていく作業。ソフトなイメージにしたかったプシュケーは、食べ物でまとめることに。といっても、「ココアブラウン」みたいなカタカナは使えませんから、伝統的な和の名前となりました。
キュートアグレッションをそそるようなイメージ。
アモールにとっては、神酒よりも、神餞よりもおいしそうに見えていたのかな...とか思いつつ、もちろん描きたかったのは彼女の内面です。
オウィディウス(紀元0年前後のローマの詩人)によると、女性の適齢期が14歳とのこと。ちなみに、〈3〉灯火で取り上げたミルラ(※後日、記事を載せます)はアドーニスを出産したとき12歳だったそうで、現在だと中学生になるかならないかのお年頃、ちょっと驚くのですが…プシュケーはきっと、まだ少し年上だと思います。考えも落ち着いていますしね🤔
でも、古代ローマの平均寿命が男性41歳、女性29歳ですからね。おそらく、乳幼児の死亡率や出産で妊婦が命を落とすことも多く、平均年齢を引き下げていたのでしょうから、王侯貴族のような恵まれた階級はもっと長く生きたのでしょうけど・・・。
ともあれ短命には違いありませんから、アモールが、"よりによって人間に生まれるなんて"と嘆いたのも、さもありなん、です。
プシュケーの性格
私が書くと、どうしても元気いっぱいのひとにはならなくて、これでも一応陰でも陽でもなくニュートラルに書くつもりだったのです。
でも、やっぱり、どちらかというと憂わしげな姫だよね...そもそも、アフロディーテの膝の上で育ったアモールが恋をするって生半可なことでは無理でしょうから、きっと彼を嵌めたのは、儚さと憂いという、アフロディーテにはない要素の美だったのだろうという結論に至りました。あと、控えめで受動的なタイプ。要するに、アフロディーテと正反対。
書き進め、読み返すうちに、プシュケーのテーマが"愛"や"生と死"だけではなく、"隠された劣等感"や"自己意識"であり、"幸せへのブレーキ"が強くかかっていることに気づきました。それゆえの憂いであり儚さ。プシュケーは、自分が幸せになってはいけないのではないかという後ろめたさの中で生きていて、成すべき務めを果たすことは目指せても、"幸せになること"を巧妙に避けている。この感覚をお持ちの方には共感できるヒロイン、ということなのかもしれません。
アモールのそばにいると、問答無用で幸せにされてしまうので、「でも、私だけ幸せになっていいのだろうか」と煩悶し、ハデスのような、公平で感情のなさそうなひとに憧れたりもする。幸せになるくらいなら死ななければいけないのではないかとまで思う。彼女の奥底にあったのは、それだったのかな?と、書き手ではなく一読者として、そう思います。
最終的に、アモールを悲しませたくないという消極的な理由で女神になることを承諾し、エピローグでは、「なんて幸せなんだろう」ではなく「アモールが幸せそうでほんとうによかった」と喜ぶ。
アプレイウスのプシュケーが、「神さまに愛されるなんて、なんて幸せなのかしら」と手放しで喜び、なんなら色仕掛けでアモールに願い事を承諾させてしまう愛らしいしたたかさを持っているのとは対照的。(個人的には、そういうことをしそうなのはアフロディーテだろうし、アモールはそうでないからこそプシュケーを好きになったのではないかと思うのですが。)
原作がいくら単純で愛らしい乙女像であり、それを模して書かなければならないとわかっていても。どうがんばってもそういうキャラクターにはできなかった自分の限界を感じたのでした。これでも、相当、ハッピーパウダーをまぶしたのですよ(◔‿◔)♡
ブグローによる「アモールとプシュケー」4点
ブグローは、《愛と魂》の寓意画だけでなく、物語としてのアモールとプシュケーを繰り返し描いています。きっと、好きな主題だったのでしょうね(^^)/
ここでは4点を、制作年順にご紹介します。
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