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エディット・ピアフ「愛の讃歌」を訳してみました|セリーヌ・ディオン|パリオリンピック開会式によせて

 パリ・オリンピック開会式のパフォーマンスがあまりにもすばらしかったので、急遽、歌詞を訳してみました。

 作詞者のエディット・ピアフ、2024年末まで著作権保護期間かと思っていたら、JASRACによると、日本ではすでにパブリックドメイン状態らしいのです。


 歌にあわせてご覧いただけるように、逐語訳寄りです。またそのうち、読んで味わうための訳を整えようかな?と思います。

 開会式の動画、フルバージョンが2024年10月10日に公開されました。↓


サブスクリプションご利用中の方はこちらもどうぞ↓



Hymne à l'amour(Édith Piaf)
(愛の讃歌 歌詞:エディット・ピアフ)

Le ciel bleu sur nous peut s'effondrer
(私たちの頭上の青い空がくずれてきても)

Et la Terre peut bien s'écrouler
(大地がなだれ落ちたとしても)

Peu m'importe si tu m'aimes
(たいしたことはないわ あなたが愛してくれているなら)

Je me fous du monde entier
(世界まるごと気にならないの)




Tant qu'l'amour innondera mes matins
(愛がふたりの朝を満たす限り)

Tant qu'mon corps frémira sous tes mains
(あなたの手の下で この体がふるえる限り)

Peu m'importe les problèmes
(悩み事もどうでもよくなる)

Mon amour, puisque tu m'aimes
(愛するあなたが 私を愛してくれているのだもの)



J'irais jusqu'au bout du monde
(世界の果てまで行くのに)

Je me ferais teindre en blonde
(金髪にだって染めるのに)

Si tu me le demandais
(もしあなたが望むのなら)

J'irais décrocher la Lune
(お月さまも取ってくるわ)

J'irais voler la fortune
(財宝も盗んでくる)

Si tu me le demandais
(もしあなたがそれを望んでくれるなら)

Je renierais ma patrie
(祖国もいらない)

Je renierais mes amis
(友人もみんな捨てるわ)

Si tu me le demandais
(もしあなたがそう望んでくれるのならば)

On peut bien rire de moi
(皆 うんと私を笑えばいい)

Je ferais n'importe quoi
(なんだってしてみせる)

Si tu me le demandais
(もしあなたが望んでくれさえしたら)




Si un jour, la vie t'arrache à moi
(もしいつか、人生が私からあなたを引き離し)

Si tu meurs, que tu sois loin de moi
(あなたが死んで、私から遠く離れたとしても)

Peu m'importe si tu m'aimes
(かまいはしない あなたが私を愛してくれているなら)

Car moi je mourrais aussi
(だって私も死ぬもの)

Nous aurons pour nous l'éternité
(私たちは永遠を手にするの)

Dans le bleu de toute l'immensité
(全き無限の青の中で)

Dans le ciel, plus de problème
(もう悩みのない空で)

Mon amour, crois-tu qu'on s'aime?
(愛しいあなた、私たち、愛し合ってることを信じてる?)

Dieu réunit ceux qui s'aiment
(神さまは 愛し合う者たちを また結び合わせてくださるわ)




 訳してみて思ったこと。

 「私」は愛する人にすべてを捧げる決意をしています。ですが、細かなニュアンスを見ていくと、相手が彼女と同じ強さで愛してくれていない・・・という翳りが感じられます。「もしあなたがそれを私に望むなら」(Si tu me le demandais)は、現実と反する仮定を表す動詞の形が使われていますので、実際には望んでもらえていないことを示しています。

 それを踏まえた上で歌に耳を傾けると──高らかに響くメロディの力強さから、迷いを振り払おうとする覚悟が伝わってくるように思えてきます。

 この詩を書いたときのエディット・ピアフの想い人は家庭のある男性だったので、このような形の詩になったのでしょうか。恋を断ち切るために書いた、とも言われています。

 ここで、1点だけ野暮な文法解説です。

Dans le ciel, plus de problème
(もう悩みのない空で)

 ふつうに読むと、「より悩みの多い空で」になり、意味が通りません(^^ゞ
 plus de questionなら、「重要な事柄がよりたくさんある」と取れますが、problèmeにはそのような意味はないみたい。peu de problèmeプ・ド・プロブレムの間違いかと思ってセリーヌの歌を聞いてみてもやっぱりplus de problèmeプリュ・ド・プロブレムと歌っていますし。
 悩んだ挙げ句、辞書をもう一度熟読したら、"ne"、つまり英語でいう"not"が省略されることがあるそうで(えっ💦)、ここはそのパターンみたいです。




 パリオリンピックの開会式、ご覧になりましたでしょうか。

 開会式がいちばん楽しみな私は、数日後になりましたが、NHK+で4時間フルに観覧させていただきました。

 時に雨脚も強まり、コンディションは最高とはいえませんでしたが(夕焼けを見たかったの😢)、パリという街の魅力にすっかり魅入られてしまいました。以前旅行したときの記憶も重なります。

 ルーヴル美術館や図書館を舞台にした出し物もおしゃれ。本の表紙が映るたびに映像を止めて解読を試みました。モバイル端末は画面が小さくて、判読できたのはモーパッサンの名前だけでしたが、愛にまつわる書籍が多かったようですね。

 パリ大会の組織委員長さんの演説を聴いていても、「パリは愛の街です」なんて豪語しておられ、その臆面のなさがちょっと似合うところもさすがパリだなあ・・・なんて(^^ゞ


 聖火の点火、セリーヌ・ディオンの「愛の讃歌」、そして煌めくエッフェル塔。

 彼女の歌は一時期よく聞いていて、英語の歌もフランス語の歌も大好き。ご病気からの復活をかけたステージは歌姫オーラがすごくて、それから数日、なんだかぼうっとしながら過ごしていました。

 映像をYouTubeで検索している間に見かけた、ドレスをつくったディオールの動画。また、セリーヌのファンがお店に集ってライブビューイングしている映像など、胸に迫るものばかり。

 セリーヌ、まだ56歳でいらっしゃるのですね。キャリアはまだまだ長いです! どうぞお身体を大切になさってください(-人-)


 歌の最後の、

Mon amour, crois-tu qu'on s'aime?
(愛しいあなた、私たち、愛し合ってること信じてる?)
Dieu réunit ceux qui s'aiment
(神さまは 愛し合う者たちを また結び合わせてくださるわ)


 この2行は、一組の男女の愛を越えて、分断されつつある世界の人に向けてのメッセージだと思うのです。

 "qu'on s'aime" の"on"は不特定の人間を指すこともできる語。"ceux qui...  " の "ceux" は複数形で、「ふたり」とも「大勢」とも取れるのです。

(人々が)本当は愛しあえる・・・慈しみ合えることを、あなたは信じてる?
神様は、愛し合う者たちを再び結び合わせてくださるわ

──なんて壮大な人間愛でしょう。


 花火を打ち上げて華やかに終わる開会式ではなく、コンサートのアンコールが終わった後の、興奮と熱が風に散らされるような、静かなフェイドアウト。

 そこにはきっと、戦火の中で逃げ惑い、いまこの瞬間に命を落としつつある人々への祈りがある、と思います。


 社会問題、政治課題を孕むオリンピックそのものの是非は確かに考えていくべきことです。でも、たぶん人間は時々、理想というものの姿を眼で見て再確認しなければ、目指す先を見失う生き物であることも確かです。

 その理念を掲げる場がオリンピックなのかは、私にはわかりません。けれど、もしそうであるなら、その目指すべき理想が、ひととき、人々の心のなかに灯ってほしい・・・そんなことを思わせる熱唱でした。



 時の人となったセリーヌ・ディオン。ラジオで流れていたこの曲をご紹介しておきます。流麗なヴァイオリンの音色も素敵。お気に入りのひとつです(^^)



タイトル画像は
Kyrylo Neiezhmakov様@stock.fotoです。
エッフェル塔の著作権は切れていますが、エッフェル塔のライトアップの著作権はパリ市が持っているため、ストックフォトサイトにも夜景はないですね、残念ながら・・・。

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星の汀 / ほしのみぎわ
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