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海藻に対する魚類捕食圧がに関する論文:人工礁の影響評価

CRESTを採択したこときっかけにブログを再開しようと思っていますが、長女が note もいいよと言われました。ので、試しに最近読んだ論文のメモを投稿してみました。


Einbinder S, Perelberg A, Ben-Shapurt O, Foucart MH, Shashar N. 2006. Effects of artificial reefs on fish grazing in its vicinity:Evidence from algae presentation experiments. Marine Environmental Research 61: 110 – 119. doi: https://doi.org/10.1016/j.marenvres.2005.07.001

Einbinder et al. (2006) では、海洋保全における人工礁の役割と、生態系への影響の可能性について概説している。

序論の注目点

  1. サンゴ礁の劣化:アカバ湾エイラート沖を含む世界中のサンゴ礁は、沿岸開発などの人為的な撹乱によって劣化している。よって東地中海沿岸においても、サンゴ礁の保全と再生への関心が高まっている。

  2. 人工礁の役割:人工礁は、海洋資源に影響を与えるために海底に設置された人工の構造物である。人工礁には、意図的に造られたものもあれば、偶発的に造られたもの(難破船など)もある。近年、人口礁は、魚類の個体数を増加、海洋生物に隠れ場を提供、新しいダイビングスポットを提供するために設置されている。

  3. 先行研究:アカバ湾での先行研究では、人工礁への魚の新規加入が早く、天然礁に比べて魚種の個体や多様性が高いことが示されている。また、代替のダイビングスポットを提供することで、自然のサンゴ礁に対する人間の影響を軽減することも示唆されている。

  4. 生態系への影響についての不確実性:人工礁の利点にもかかわらず、人工礁が周辺環境に与える生態学的影響は完全には理解されていない。たとえば、人工礁が魚の生産を促進するのか、それとも単に自然の生息地から魚を引き寄せるだけなのかということである。この誘致によって、捕食者や草食動物が一箇所に集中し、自然群集のバランスが変化する可能性がある。

  5. 栄養連関に関する疑問:人工礁に生存する魚類が、特に海藻の捕食のようの面で、隣接するハビタットにどのような影響を与えるかということである。人工礁の近くに魚類が集中すると、藻類などの近隣の食料源が枯渇し、地域の生態系に変化をもたらす可能性がある。

  6. 研究の目的:目的は、人工礁付近の藻食性魚類が藻類とどのようにかかわるかを調べることで、人工礁がその付近のグレイジングパターンを変化させるかどうかを検証することである。仮説は、人工礁は、遠くの対照地点と比較して、近辺の捕食圧を増加させるというものである。

考察の注目点

  1. 人工礁付近での放牧の増加:藻食性魚類が人工礁に集まるため、遠方に比べて近傍の大型藻類に対する捕食圧が有意に高くなることが確認された。このパターンは、魚種や場所の特徴に違いがあるにもかかわらず、調査したすべての人工礁の場所で一貫していた。

  2. サイト間の違い:グレイジングの強さと範囲は3つの調査地点間で異なっていた。これらの違いは、人工礁の大きさ、構造、複雑さの違いによるものと考えられる。大型で複雑な構造物ほど、より多くの魚類を引き寄せ、周辺環境への影響をより遠くまで拡大した。この結果から、人工礁が魚の行動やグレイジングに与える空間的な影響は、礁自体の物理的な特徴と関連していることが示唆された。

  3. シェルターと採餌:人工礁は魚類に捕食者からの避難場所を提供するため、魚類は近辺で採餌を行いつつ、脅かされた場合にはリーフに退避する能力を維持することができる。この "シェルター効果 "は、特に人工礁の調査地点において顕著であり、半径約20mの範囲で激しいグレイジングが観察された。リーフから遠く離れた場所では、捕食者に対する脆弱性が増すため、魚はあまり藻を食むことがなかった。

  4. 自然礁との比較:人工礁に引き寄せられた魚が、自然礁から引き離される可能性があることを指摘している。このことは、人工礁は魚の個体数を全体的に増加させるのではなく、再分配させる可能性があり、自然の生態系のバランスを変化させる可能性があるという考え方を裏付けている。魚の不均一な空間分布は、人工礁と天然礁の両方の環境において、サンゴと藻類の動態に影響を与える可能性がある。

  5. 生態系への影響:人工礁周辺でのグレイジングの増加は、地域の海洋生態系により大きな影響を与える可能性がある。グレイジングは、サンゴと場を取り合う大型藻類を制御するために不可欠である。しかし、人工礁によってグレイジングの強度と分布が大きく変化した場合、サンゴと藻類 の自然な競争のバランスが崩れ、無脊椎動物やサンゴなど他の生物に影響を与える可能性がある。

  6. 人工礁の展開における注意点:著者らは、人工礁を展開する際には慎重な計画が必要であることを強調している。人工礁は、生息域を提供し、天然礁に対する人間の圧力を軽減することによって海洋保全に貢献することができるが、栄養動態や周囲の生態系への潜在的な影響を十分に考慮する必要がある。人工礁は食物網の相互作用を変化させる可能性があり、その影響はケースバイケースで評価されるべきである。

主な結果

  1. 人工礁付近での放牧の増加:藻食性の魚が人工礁に集まり、その結果、人工構造物のない対照地点と比較して、人工礁付近の藻類(Ulva lactuca)への捕食圧が2~3倍増加した。

  2. グレイジングパターン:捕食圧は人工礁からの距離が離れるにつれて減少した。最もグレイジングが多かったのは、人工礁から10~20mの範囲であった。魚類は、Siganidae (rabbitfish), Scaridae (Scarrotfish)、Pomacanthidae (Energelfish)科の魚類が主な摂食者であった。

  3. 周辺環境への影響:人工礁は、大型藻類に対する捕食圧を増加させることで、自然環境を変化させた。これは、サンゴや無脊椎動物のような他の生物の存在量の変化を含む、地域の生態系の栄養動態に影響を与える可能性がある。

使用した統計解析

論文ではノンパラメトリックな統計学的検定が使われました。

Page’s L test for ordered alternatives は順序尺度(例えば、商品の評価を5段階で評価するなど)で測定されたデータにおいて、複数の群間の順位が異なるかどうかを検定する統計手法。自然礁と人工礁の距離が増加することで、海藻の捕食圧が減少したことを統計学的に評価するために行った。捕食圧の減少は、3か所に対して、全て統計学的に有意でした (P < 0.05)。その一方で、人工礁がないところでは、統計学的に有意な結果はなかった(P > 0.05)。

Mann-Whitney U testは、2つの独立した群のデータについて、中央値に有意な差があるかを調べるためのノンパラメトリックな統計学的検定です。自然礁とコントロールを比較した場合、人口礁に近い自然礁における捕食圧はコントロールより高かった。さらに、この現象は3か所統計学的に有意だった(P < 0.05). 人口礁からの距離が増加すると、捕食圧は減少した。自然礁とコントロールの最も離れたところを比較しても、自然礁での捕食圧が高かった(3か所 P < 0.05)。

結論として・・・

人工礁は魚の行動に明確な影響を与え、特に近くの藻類に対する捕食圧を高めるという点で影響があると結論付けている。この影響は、人工礁の構造や大きさによって異なり、その生態系への影響は、自然のサンゴ礁生態系に意図しない影響を与えないよう、慎重に管理されるべきである。

最後の一言

人工礁が生態系に与える広範な影響、特に魚の行動や周囲の生態系への影響について考慮する必要性を強調している。人工礁は魚の個体数を増やし、生息地を提供する一方で、捕食圧を増加させ、海洋生物群集の自然なバランスに影響を与える可能性がある。

自然生態系への意図しない混乱を避けるため、今後の人工礁の配備はこれらの影響を注意深く考慮すべきであると提言している。

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