#うたかたの戯れ 『媚薬を一滴』
「飲んでいただけませんか」
「何をですか」
「こちらです」
「…媚薬」
「一滴ほどで構いません」
「…何故そのまま差し出しましたか。何か飲み物に混ぜて渡していれば飲んでいましたよ」
「誠実な男でありたかったからです」
「媚薬を使おうとすることは誠実なのでしょうか」
「だって」
「何でしょう」
「貴女に好いて欲しかったのです…」
「照れる箇所が明らかに違います」
「ちなみに、成分表はこちらになります」
「リンゴ、ザクロ、イチジク、カカオ、コーヒー、生タマネギ、アザラシの【バキューン】、オットセイの【バキューン】、牛の【バキューン】、羊の【バキューン】、イモリの黒焼き、ガマガエルの粘液、コウモリの血液、マンドラゴラ。…前半まではちょっと美味しそうだったのに、後半はどうしたことでしょう。
そして、何故これを見せましたか」
「安心していただきたくて」
「食品標準成分表を遵守する姿勢は評価しましょう」
「それで」
「はい」
「飲んでいただけますか」
「逆に訊きましょう。貴方はこれを飲めますか」
「できれば飲みたくありません」
「わたしも全く同じ思いです」
「ですが」
「はい」
「貴女に好いて欲しいのです…」
「…ならば、言葉が違います」
「?」
「誠実な男であってください」
「! …あの、」
「はい」
「私は、貴女を愛しています」
「ありがとうございます。わたしも貴方を愛してますよ」