
「恋の矢」
「…ねぇ」
「何?」
「あの、…え?何それ?」
「何が」
「あの…胸、矢が刺さってるじゃん…?」
「ああ、これ」
「え?何これファッション?」
「違うけど」
「えっ。じゃあほんとに何それ大丈夫?」
「大丈夫っちゃ大丈夫だし、ダメっちゃダメだな」
「えぇー…」
「だってこれ、恋の矢だし」
「…なんて?」
「恋の矢。なんか、昨日通りすがりの天使に急に撃たれたんだよね」
「物理」
「まぁ大丈夫っしょ。死んでないし」
「死ん…。…不便じゃないの?」
「めっちゃ邪魔。服穴あけなきゃ着れないし」
「穴開けてるんだ…。…抜けないの?」
「抜いてみるか?」
「えっ、怖…」
「ほれ」
「え…。…んっ。…んん?…ふんぬー!!!……手が痛い」
「びくともしないんだわ」
「ほんとに何これ…。というか、誰に恋してるの?」
「ん。んー…」
「言えない人?」
「んー。…いや?」
「誰だれー?」
「あー…。…お前のお兄さん?」
「そこは“わたし”っていう流れだと思うし、普通に応援するから普通に言ってほしかった」
「ごめんて」
「え?いつから?」
「幼稚園の時?」
「まさかの初恋…?」
「いや、初恋はお前」
「ねぇちょっと感情が複雑すぎてどうしたらいいの」
「まぁ、そのうち抜けんだろ」
「わたしも初恋だったんですけどぉー!」
「諦めろ」
「ちょっとお兄ちゃん、こいつの事しあわせにしないとホント許さないからな!!」