「革命に散る命へ」
「…わたしは民衆が嫌いよ。
力を持っているくせに弱いフリをして、全ての責任をこちらに負わせるのだもの。
糾弾して、拷問して、首が落ちるさまに熱狂して。そうして、自分たちが世界を変えたつもりになるの。
それでも、そこまでしてもどうせ自分で歩こうとはしないから、また声の大きな“誰か”について行ってしまう。
…それでは同じなのよ。結局、首が挿げ替えられただけで何も変わってなんかいない。
それでも、きっと気付かないの。
……本当に、民衆なんて嫌いよ。大嫌い…」
ぽつりぽつりと落とされる言葉を聞きながら、召使いは姫の髪を丁寧に梳(くしけず)った。
かつて、光がこぼれ落ちるように美しかったことなど幻であったかのように張りを無くし、くすみ、くたびれてしまった長い髪を。
労わるように。
慰めるように。
丁寧に、丁寧に梳る。
静かに流れ落ちる涙を、拭うことはしなかった。
ただ、ただ丁寧に。
丁寧に梳った。
ーー 時を報せる鐘が鳴る。
召使いは髪から櫛を離し、数歩下がると、姫へと深々と腰を折って頭を下げた。
迎えに現れた兵士に連れられ、気高き姫は牢獄を後にする。
言葉は交わさなかった。
必要がなかった。
熱を奪う石の床に、ぱたぱたと落ちるままに涙を落とす。
似つかわしくない青空の下。
似つかわしくない怒号と罵声の中に姫は散る。
…だから、せめてこれだけは、どうか覚えていてほしかった。
貴女と共に在れたことが、何よりの誇りであった者がいたことを。
貴女を惜しんで泣いた者が、間違いなくいたことを。