#うたかたグルイ 『壊れた十字架』 ※十字架的な宗教の方は、閲覧注意でお願い致します。。
カラン、と。乾いた音が目の前の地面の上で鳴った。
抱き留めた体は既に冷たく、息も無い。
右手に持つ槍は、磔を壊したせいで少し歪んでしまっている。
しかしそれでも、だから何だというのだろう。
ありもしない罪を全て背負い、
知りもしない者の罪をも背負わされ。
それでも、人の幼さを許容して。
それでも、神に赦しを乞うた者。
これ以上の苦痛を、どうして与えられようか。
贖罪は、穿たれた手足より流れる血で果たされよう。
救済は、神の手により叶うだろう。
ならば、人から与えるものは。
苦しみ抜いて息絶えた、聖なる者への解放を。
過失や故意で押し付けた、苦しみからの解放を。
十字架の残骸の側まで歩き、腹の底まで息を吸う。
グサリと、深く深く。
残骸の真ん中に見える地面へと、右手の槍を突き立てた。
全ての息を吐き出して。
細く軽い体を抱え直すと踵を返した。
あぁ神よ。
願わくは、どうか。
腕の中で動かぬ人へ、優しい夢を。
腕の中で動かぬ人へ、安らかな眠りを。
壊れた十字架の朽ちゆく様を、誰もその目にせぬ事を。