イケメンのゴリラはいない
先日、愛知にある東山動物園に行ってきた。
東山動物園には、“シャバーニ”という「イケメンゴリラ」として有名なオスゴリラがいる。
友人の「シャバーニが見たい」という鶴の一声により行くことが決まったのだが、私はシャバーニを知らなかった。
調べてみるとなるほど、確かに精悍な顔つきをしていた。
イケメンと言われるのも分かる。
私たちはまだ見ぬシャバーニに大いなる期待をよせて動物園へ向かった。
ゴリラゾーンに辿り着くまでに、コモドドラゴンやゾウエリアを通る必要があった。
正直私は、早くシャバーニに会いたかったため、この辺の記憶があまりない。
愛知在住で何度も東山動物園を訪れている友人は、こう言った。
「シャバーニまじでデカくてびっくりするよ。他のゴリラとは格が違う。」
シャバーニへのハードルはどんどん上がっていった。
ゴリラゾーンに着くと人だかりができていた。
群衆に飛び込むと当たり前だが、ゴリラがいた。
倉庫のようなもの(倉庫の扉はおそらく下へ降りる階段へ繋がっていた)の上にゴリラが1匹寝そべっていた。
所在なさげに手や足をブラブラさせ、だらしなく寝そべっているそのゴリラは、休日の自分を連想させた。
寝そべっているせいであまり顔は見えないが、誰もがそのゴリラをシャバーニだと思っていた。
私含め友人も皆「シャバーニ!でっか!!」と興奮していた。
やがてシャバーニらしきゴリラは倉庫から降りて、部屋を意味もなくうろつき始めた。
それにつられるように、他のゴリラもぐるぐると歩いている。
シャバーニらしきゴリラと他のゴリラは、体格が全く違った。
実際はもっと大きいのだろうが、シャバーニらしきゴリラと比べると、他のゴリラがチンパンジーくらいの大きさに見えるのだ。
友人が上げに上げまくったハードルは、この時点で超えていた。
ただ、イケメンかどうかは分からなかった。
ガラス越しで顔が見えずらいのもあるが、正直どのゴリラもゴリラ顔だった。
イカつめの顔をした人を「ゴリラ」とからかうように、ゴリラ顔とはイケメンを指す言葉ではない。
人間界ではゴリラの顔はイケメンの類ではないのだ。
だからシャバーニらしきゴリラの顔を見ても「ゴリラだなぁ」としか思わない。
あの写真は盛れてるやつだったんだな、と思っていると倉庫から1匹のゴリラがでてきた。
デカすぎる。
誰もが思った。
「こっちがシャバーニじゃね?」
先程まで私たちがシャバーニだと思っていたゴリラよりも、さらにデカい。
しかもうっすら毛がグレーがかっている。
たしかゴリラ界では、ボスゴリラはその毛並みにちなんで“シルバーバック”と呼ばれていたはずだ。
先ほどのシャバーニもどきが、他のゴリラの1.5倍のデカさだとすると、シャバーニは2倍くらいある。
全てのゴリラがシャバーニの後をついてまわっていた。
シャバーニはしばらく部屋の中をうろついていたため、顔も確認できた。
失礼ながら、イケメンではなかった。
シャバーニの顔を見て思ったことといえば、「鼻の穴大きいなぁ...。あ、ほんとにゴリラって鼻くそほじるんだ」くらいである。
人間界の感性に慣れている私には、ゴリラ顔のシャバーニからイケメン要素を見出すことはできなかった。
ちなみに友人のサーチによると、最初に私たちが騒いでいたシャバーニらしきゴリラは「アイ」というメスゴリラだった。
そもそも雄雌の区別さえついていなかったのだから、顔つきでシャバーニを見分けるなど到底不可能だったというわけだ。