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ドンキホーテ・ドフラミンゴという男
※ネタバレを含む表現がありますのでご注意ください。
ドンキホーテ・ドフラミンゴをご存知だろうか。
ONE PIECEに出てくるキャラの1人である。
敵キャラなのだが、私はこの男が大好きだ。
悪のカリスマとはよく言ったものだ。
ドフラミンゴほど狡猾な男はいない。
絶対的に悪なのに、憎めない。
闇のブローカー・ジョーカーとして人造悪魔の実を誘拐した子供に与えて人体実験をする。
(実際に行っていたのはシーザーだが、根源はドフラミンゴ。)
人の国を乗っ取る。
慕ってくれている部下に「俺の為に死ね(意訳)」と命ずる。
家族を殺す。
彼の悪行をこうして文章にすると相当ヤバイ奴である。
テロリストであり、売人であり、殺人鬼でもあるのだ。
これだけ読むと、慈悲のかけらもない冷酷無比な人間に思えるが、私はそうは思わない。
彼ほど人間味溢れる男はいない。
大前提として、ドフラミンゴは歪んでいる。
しかしその歪みは、環境が作り上げたものだと私は思う。
天竜人として生まれたが、心優しい両親がその地位を捨てたことで、マリージョアからは見捨てられた。
もう天竜人ではないのに、一般社会では天竜人として扱われ、何の庇護もないドンキホーテファミリーは憎悪の対象となってしまう。
天竜人は確かにクソだ。
「天竜人もただの人なのだから、地上で慎ましく暮らそう」という彼の父親の感性は正しい。
でも、私は思う。
彼の両親は一種の毒親ではないかと。
天竜人が地上で生きる人間に何をしてきたかは知っているはずだ。奴隷への虐待などは行ってないとしても、それまでの何不自由ない生活は一般社会の人達から搾取したもので成り立っていた。
正常な感性を持った彼の父親がそれに辟易とする気持ちは分かる。
でも、少し考えれば分かるはずだ。
一般社会の人からしたら、天竜人は皆等しくカスである。天竜人が自分たち以外を一括りに虫ケラのように扱うこと同じ原理だ。
天竜人が特別な扱いをされているのは、さまざまな庇護下にあるからで、それらが一切なくなれば人々の憎悪の対象になることは容易に想像できる。
それが分からなかった時点で、彼の父親も結局“天竜人”なのだ。
そんなこともわからないのに、家族全員を巻き込んで地上に降りたのはただのエゴだ。
地方転勤を命じられた父親が、1人で行くのが嫌だからと受験を控えた子供も連れて転勤に連れ回すのと同じくらいタチが悪い。
彼の父親は、自分のことしか考えていなかったといえよう。
毒親の勝手な判断である日突然地上に連れていかれ、それまでの豪勢な生活はできなくなり、痛めつけられる。
幼少期にそんな経験をしたらそりゃ歪む。
ガキンチョドフラミンゴが他の天竜人と違わぬクソぶりである描写があったが、それを差し引いても歪んでしまうのは仕方がないことだと思う。
ではなぜ弟のロシナンテは、天竜人のクソさを一切残すことなく、まともに育ったのか。
海軍に拾われたのが大きな要因だと思う。
海軍にもクズはいるが、センゴクに拾われたのはかなりラッキーである。
センゴクは、作中でも屈指のマトモさを持っていると思う。
つまりドフラミンゴが歪んだまま悪の道へといってしまったのは、何が正しいかを教えてくれる人間が周りにいなかったからだ。
父親を殺し、自分を裏切った弟も殺したドフラミンゴが、“ドンキホーテ・ファミリー”を作ったのはなぜか。
曲がりなりにも家族を愛していたからだ。
愛していたからこそ許せなかった。
もう2度自ら家族を手放さずに済むように、絶対に自分を裏切らない家族を“選んだ”のだと思う。
だからこそ、ファミリーの裏切りを許さない。
つまりドフラミンゴは家族に、愛に飢えている悲しい男なのだ。
そんな男が“愛と情熱の国ドレスローザ”を乗っ取ったのも、物語として美しいと思う。
尾田先生がどういう意図で作ったキャラなのかは知らない。
全て私個人の勝手な解釈ではあるが、前述した要素から、ドフラミンゴから良くも悪くも人間味を見出し、大好きなキャラになった。
あとシンプルに見た目が良い。