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ポータブルバスタブ

新居には風呂がなく、その代わり近くに銭湯が2軒ある。
一つは歩いてすぐそこで3時から11時まで、歩いて五分の所は1時半から九時前くらいまで。

一度遠い方のところにギリギリにいった、わけではなく案内ではまだまだやっている筈だったが、いきなり閉店しようとしていたので焦った。
その日は26の日で市川市内の銭湯は毎月半額の日だった。

ぶっきらぼうな老婆に、体だけでも洗わせてもらえないか、ときくと、すぐ閉めるからとっとと入んな、と無料で入れてくれた。
急いで洗って少し浸かり、半額分だが払った。

近くのところはありがたく通っている。老夫婦とたぶん息子さんでまわしているが、ある日突然9時閉店になって焦った。おやっさんの調子が悪いらしい。

旧居である柏のアパートには浴室こそあったがガス釜が壊れていて自作のシャワーを使っていた。
洗濯電動ポンプと各種園芸用アダプターを組み合わせた自慢の逸品。
夏のうちはずっと水シャワーで十分だったが、気温が下がると大型の湯沸かしポットで二回湯を作り保温改造したケースに熱湯をいれて薄め、熱々のシャワーを浴びていた。

新居には浴室がない。が、余分な排水口を一つ作ってもらっていた。

あるネットニュースで「ポータブルバスタブ」の存在を知った。これは良さそうだ。
悩みに悩んで海外レビューしかない一番安いものをポイントで買った。良かった、もう手持ちの金はない。

届いてすぐに組み立てて水を張る。エアポンプ式と違いそのまま水を入れられる。
65センチの直径は、大柄な自分には向かない気がしたが、十分だった。

ガスのない家なので、水風呂だ。
済む前につけてもらったミニキッチンの蛇口が接続部のないタイプなので、近所のホームセンターを回ってアダプターを見つけていた。これはネットで買うのが難しかった。

そこからホースを繋げ、バスタブへ。
あっという間に水が溜まる。
猛暑日になった昼間、気持ちの良い水浴びだ。

昔よく読んだ東南アジア旅行記には、家に呼ばれると必ず水浴びを勧められていた記憶がある。
目で読み解くあの心地よさが、いま部屋の中にある。

銭湯では無理だったが、風呂に浸かりながら本を読むのが好きだ。若かった頃は銭湯に文庫本を持ち込んでいた。風呂で読む本が、一番楽しいとも言える。

バスタブには排水口が2つあり、そこにあるものを家の排水溝の上に設置すれば、使い終わればそのまま水が流せる。
一度で流すのはもったいなく、朝に一度、夕方早くに一度、夜帰ってからは体と頭を洗って流す。

昔、イギリスを旅行していたとき、部屋のど真ん中にバスタブがあって呆然とした。
日本的感覚からいえば、どうやって湯に浸かり体と頭を洗うのかわからない。
当時の英国人たちは、バスタブに浸かりながら体と頭を洗っていた。

今になって似たようなことをしていて、あの頃のことを思い出した。
4歳だった。

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