MNG : Dancing tuba ずんぐりむっくり
長かった前章から続き
で、届いた。
BBb Compact Dancing Tuba ‘Stumpy’ – TB219
例の極小tuba Mighty Midget のメーカー、Wessex社の物。
国内に代理店はないので実機を置いている店舗もなく試奏不可能。
調べてもどうやらユーザーが極端に少ないみたいで資料はほとんどなし。
カタログスペックを見ると異常な点ばかりが目につく。
Height: 28.75 inches = 約73センチ。
え?ユーフォニアムでも65~7cmくらいじゃなかったっけ?+10cmも行かない位置にベルがあるって想像がつかない。
Weight: 14.33 lbs (6.5kg)
ユーフォニアムの重いのが5kg位か。軽すぎる。
実はMMを買った5年くらい前に同社に問い合わせて、これこれいう感じの演奏しているので極コンパクトなtubaを切望している、このstumpyはどう?ときいたら、うーんあんまりオススメしないかなあ、MMの方が良いよ、みたいな返信が来たのでその時は諦めた。
トーニスターtuba MMも最初は手強かった。音を出すこと自体が難しかったし、音程は壊滅的。なんだが、既存のtubaを同じように扱うからいけないのであって、これ独自の楽器だと思えばいいと割り切って使うと色々とやれた。
並べて比較。まあこれでもかなり小さいというか背が低い。
ここの楽器は一つ一つに名前がついているのだがMighty Midgetは「小さな矮人」でいきなり差別用語が入っていて凄いところにこれはもっとひどい。
ずんぐり、って。小デブ、か。
確かに途中のから下半身が足りないかの如く断ち切られたようなデザインが特異だ。その秘密は抜き差し管の異常な構造にある。
マウスパイプからいきなりチューニングスライド(主管)直通だがこの部分がいきなり二重巻き。1番2番はまあともかく3番は内側に無理やり曲げて折り込んでいる。水抜きが全管についているのもオカシイ。
様子がおかしいのがわかってもらえるだろうか。
ベルの下部ド真ん前に二重巻きの主管があるのが狂ってる。
手に入れてすぐの頃だが、構え方すらわからなかった。未だに迷う。しかもこの楽器「右手でも左手でも操作できます」って凄いところにピストンが付いてある。
もちろんだけど、こんな形のtubaは他に一つもない。完全なオリジナルデザイン。まあもともとtubaというのは定形がないいい加減な楽器だが。
形のことはまあいい、音である。
まずは吹いてみた。B♭管だし「ド」にあたる下のB♭を。
す~。
え?
。。。。。。。
出ない。。。。
音のスポットがさっぱりわからない。
基音である音がまともに出ない。わっはっはっは。
まいったなあ、すぐ売るか。
と思ったのだが、それも何だし、他の音も色々吹いてみる。
MMのときと同様、音程の感じは最初はさっぱりわからない。まあ新品の楽器なんて最初はどれもまともに音出ないもんだしなあ、というと驚かれるが、そんなものです。
メインで使っている621、今年で14年目くらいになる使用で、年間200本くらいのライブで酷使し続けて、ちょっと音が出るようになってきたかな、というのはごく最近です。やっと面白みが出てきた。自分の場合、それくらい時間はかかる。
しかしこのズングリ、明らかに音が出ない気が。試奏で吹いたら2秒で「これ要らないです」っていうレベル。いや、しかし。自分の能力が足らないだけかもしれないからもう少し吹いてみよう。楽器は動産や。
それから時間を見つけて可能な限り吹き続けてきた。1ヶ月以上は経つ。
2週間位してやっと下の「ド」B♭の出るポイントが少し分かってきた。唇も口腔も体の内部も全開にするくらい太く広く気合い入れて「おりゃあ」と初速は約タイミングよくいいけば出る。出た!って楽器ってそういうもんじゃないだろう。その後1週間位は最初は失敗して、あ、気合じゃ、とやり直して出るようになってきた。何なのだこれは。
Bore: 0.75″ (19mm)
これがかなり特徴だった。
ボアとは
まあいえばキャラクターの根幹に関わる大事な「太さ」なんだが、これがこのサイズのtubaにしては19mmはやたらに大きい。太い。こんなの入らない。違う。
寸詰まりのズングリ野郎のくせに息を大量と必要とする。贅沢な。その割にそんなに豊かな鳴りはない。何を考えて作られたのだろうかコイツは。
ただ、そのボアの太さ故か、いくつかの特定の音程の音だけ、ズーンと鳴る変な特徴があって、最初から気になっているのはここだけ。下のD、Eあたりはちょっと他にないキャラクターで、エグい。でもそれだけ。
ピストンの性能はまあまあ、昔の東欧中欧系の廉価楽器よりは動いてくれているが何だか知らないけど息との連動がやたらに悪い。リップスラーってなんですか、という国の楽器か。2度降りるだけでもしんどい。自分は比較的(バカみたいに)速い速度で吹く奏者なんだが、これだとフガフガと何言ってるかわからない入れ歯を外したジジイが喋っているみたいな滑舌の悪さを披露する。まるで初心者に戻ったか、それ以下。
これ以上悪く言っても仕方がないのだが、そういう楽器だ。
なのにライブのない日はこればかり吹いているのは「出来ないというのはかなり面白い」という事に気がついたからだ。
一つ音出すのも苦労する取り回しの悪さ、汎用性の無さ、安定性の無さ、まるで自分の技術を奪われたような屈辱さえ感じるこの楽器を、どうにかして使えるようにしよう、と悪戦苦闘している時間が、いま一番楽しい。
今まで手に入れた楽器はすぐライブで使っていたけど、これだけはどこにも持っていけない。一体いつになったら金を回収し始められるのだろうか、見当もつかない。使うとしたらアコースティック、ノーマイクがいいな。静かな歌ものとかで特別なことを何もせずただ不器用な音をブースカ吹いているだけの老人みたいなプレイに向いてそう。どんなプレイや。
これをやりはじめていいこともあった。やたらと気合い入れて音を出す日常の影響で、普段ライブで吹いている楽器が異様に楽に感じる。大リーグボール養成ギブスか。特に低音が太くなった。楽器演奏に於いて太いと重いは最高だ。大きくて重いものが速く動くのがいいのだ。tubaなんて遅くてやってられん。
最近ライブのない日には近所の公共施設の練習室を借りてしょっちゅうこれを吹いている。軽くウォーミングアップやってるだけで最大の2時間があっという間に終わってしまうのだが、苦しいはずなのに楽しい時間は早く過ぎていく。これがまたいい。ここのところ常に「はやくもっとちゃんと吹けるようになりたいな。ちょっと吹く時間ないかな。ちくしょう音出ないかな」と思うようになっていて、前述の「出来ないことは楽しい」という感覚がつきまとう。出来ない、ということは、これから出来るようになるということだ。
楽器を手に入れるにあたってはもっと他に音楽の色々なことを考えていたので、それはまた別に書くつもり。
なんつっても名前がいいよね、DANCING TUBA。俺が吹かないで誰が吹く、という風情。実際、全然踊れねえけど。
さて今日も一踏ん張りするか。